注:かなり昔に作ったもので、かなりいい加減に作っているので、固有名詞などかなりいい加減なカタカナ表記になっているのでご注意ください・・・。固有名詞は一応は古アイスランド語のテキストから拾い出しはしていますが、カタカナ表記は・・・。信じないように・・・。


 トリュッヴィ王にはオプロステズの有力者の「丸い禿頭の」エイリークの娘のアストリーズという妻がいた。彼女はグズレズ王がトリュッグィ王を殺害したと聞いて身の危険を感じ、持てるだけの家財道具を持って屋敷を出た。「しらみ髭の」ソーロールヴという彼女の養父がその旅に付き添い、決して彼女のそばを離れなかった。アストリーズはトリュッヴィ王との子供を連れていたので湖にある島に隠れていた。彼女のそばには数名の家来がいた。そこで彼女は子供を育てた。子供は祖父の名前を取り、オーラヴと言った。夏はそこで過ごしたが、秋になると彼女達は父のもとへ向かった。実家に着くと彼女は家来達に暇ごいを許し、そばにはソーロールヴと8冬歳のソーロールヴの息子だけをそばにおいていた。
 トリュッグィ王の死後、ハラルド灰色外套王と弟のグズレズ王はトリュヴィ王の領土に向かった。しかしそこで彼らはアストリーズと息子のオーラヴの情報は何も得ることはなかった。彼らはヤールのハーコンとの戦いもあって彼女達を執拗に追いかける暇もなかった。翌春に王母グンヒルドはアストリーズが父のもとで暮らしていると情報を得た。彼女は友人の大戦士のハーコンを頭にして一団を送り出した。その一団がオプロステズに近づいた頃、エイリークがその情報を得て、娘達に仕度をさせてスウェーデンにいる友人の「老齢の」ハーコンのもとへ向かわせた。次の日の夕方、彼女達はスカウンで大きな屋敷を見つけたので、そこに彼女達は質素な格好で一晩の宿を頼みに行った。その屋敷には金持ちで悪人のビョルンという者が住んでおり、彼は彼女達を追い払った。彼女達はすぐそばのソルステインの農場に着き、同じ様に宿を頼んだ。彼は彼女達に心地よい一晩の宿を提供したのであった。
 早朝、グンヒルドに雇われたハーコンがアストリーズの実家に到着した。しかしエイリークは彼女の居所を教えなかった。彼らは彼女達が進んだ方向へ向かい、スカウンのビョルンの屋敷に到着した。ビョルンは彼らにそれらしき者達が来たが追い返した事、この近くに宿を提供しそうな屋敷があることを伝えた。その夕方にソルステインの使用人がハーコン一行の姿を見つけ、その目的を感づくとすぐに屋敷に戻り主人のソルステインに伝えた。夜も明けようとしている時、彼は彼女達を起こしてすぐに出発するように強く言った。彼は屋敷から出た時、彼女達に追手のことを伝え、彼女に道案内と食糧を与えた。彼女は湖のすげの生い茂る島にやって来て、そこに身を隠した。ソルステインは追手のハーコン一行を撹乱するために彼らを違う方向に案内し、彼女達は決して発見されることはなかった。
 王母グンヒルドはアストリーズとオーラヴがスウェーデンにいることを知り、スウェーデン王エイリーク王に追手のハーコンにたくさんの贈り物と友情の言葉を携えさせて遣わした。ハーコンはエイリーク王にオーラヴの面度はグンヒルドが見ると言った。王はハーコンに家来を与え、「老齢の」ハーコンを訪ねさせた。「老齢の」ハーコンはオーラヴの運命は母親のアストリーズが決め、そして彼女は手放しはしないだろうと穏やかに答えた。追手のハーコンは再びエイリーク王の援助を乞い、王はそのようにした。しかし「老齢の」ハーコンは再びそれを断った。しかしオーラヴの居所の情報はグンヒルドの耳に入ることになった。
 アストリーズにはシグルズという兄弟がいた。彼はガルダリーキで長らく過ごしており、ヴァルデマール(ウラジミール)王に仕えていた。アストリーズはシグルズのもとへ行きたいと望んだ。「老齢の」ハーコンは彼女達に十分な準備と家来を与えた。彼女達の旅には数名の商人が同行した。この時、オーラヴは3冬歳であった。彼らがバルト海に出た頃、エストニア・ヴァイキングが襲ってきた。アストリーズとオーラヴは別々に奴隷としてヴァイキング達に連れて行かれた。クレルコーンという者がオーラヴとソーロールヴとソルギースルを連れていった。しかしソーロールヴは年老いていたので役に立たないと判断され殺害された。オーラヴとソルギースルは売りに出され、レーアスという者が買い求めた。その代価はマント一枚で支払われた。レーアスの妻はレーコンで、子供はレーコニと言った。オーラヴはそこで育てられ、農夫の彼はオーラヴを大切に育てた。こうして6冬歳になったオーラヴはエストニアで過ごしていた。
 オーラヴのおじのシグルズはヴァルデマール王の用向きでエストニアにやって来た。市場で彼は外国人とおぼしき少年と出会い、少年に出生を訊ねた。
「名前はオーラヴ。父はトリュッヴィ・オーラヴソンで母はエイリークの娘のアストリーズ。」と少年が答えた。
シグルズは彼は甥であると判り、なぜここにいるのか訊ねた。シグルズはオーラヴに降り懸かった出来事を知ると、養父レーアスのもとへ行き、オーラヴとソルギースルをホルムガルズに連れていった。シグルズはオーラヴが王家の者であることは秘密にしていた。
 ある日、オーラヴは市場でぶらついていた。その時、養父ソーロールヴを殺害したクレルコーンを見つけた。彼は小斧を手にするとクレルコーンの頭に打ちつけて殺害した。彼はシグルズのもとへ行き、彼に全てを話した。シグルズはすぐにアルローギア王妃の下へ行き、彼女の援助を頼んだ。彼女は彼の頼みを聞き入れ、兵士を多く彼女の下へ集めた。ホルムガルズには「殺害には命をもって償う」という法があった。ホルムガルズの民は法に従って少年を探し、王妃に引き渡しを要求した。このことは王に伝えられ、彼は危険回避するために王妃に罰金を命じた。
 これ以後はオーラヴは王妃の保護下におり、彼女は非常に彼を可愛がった。ガルダリーキの法では王家の者は王の許しがなければいてはいけなかった。シグルズは王妃にオーラヴに降り懸かった不幸な出来事とノルウェイにいれない事情を語った。こうして王妃の保護を受けてオーラヴは9冬歳から18冬歳までこの地で過ごした。彼は非常に男前で、体も大きく、強く、武道に優れ、あらゆる競技においてサガで語られるノルウェイ人を凌いでいたのであった。
 オーラヴの話はひとまず置いて置いて、お忘れかも知れませんが、エイリークの息子達と争い、デンマークに逃れたヤールのハーコンの事に話が戻る。彼はデンマーク王ハラルド青歯王のもとで過ごしていた。彼はその冬の間、ベッドに横たわり、あれやこれやと試行錯誤を繰り返していた。ハーコンは「黄金の」ハラルドとにも友情があった。ある日、「黄金の」ハラルドはハーコンに相談した。
「要求すればハラルド青歯王は俺に領土を分けてくれるだろうか。」と「黄金の」ハラルドは訊ねた。
「デンマーク王は貴殿の要求を断りはしないでしょう。しかしそれは熱心に行わなければ望みはないと思われますが。」とハーコンは答えた。
この話し合いの後に「黄金の」ハラルドはデンマーク王ハラルド青歯王に領土を割譲するように要求した。
「このたわけが。我が父王ゴルム、その父ホルザ・クヌート、「蛇目の」シグルズ、ラグナル・ロズブロークのどの王もデンマークの半人前の王になることなぞ望みはせぬわ。」と激怒してデンマーク王ハラルドは答えた。
 「黄金の」ハラルドは領土を手に入れようと考えをめぐらせていた。彼はついには武力をもってしても領土を手に入れたいと考え、その重いをハーコンに伝えた。ハーコンは軽率な考えは慎むように言ったが、彼は聞き入れず、ついには王の殺害まで考えていると打ち明けた。ハーコンはデンマーク王ハラルドに事の次第を伝えた。
「これ以上、やつが領土を欲するのであればやつを殺害するまでだ。やつは信用するに足りぬ男だ。」と王は答えた。
「しかし閣下。彼も本気です。何度でも要求するでしょう。彼が蜂起すれば彼の父の多くの友情によって多くの者達が彼に協力を惜しまないでしょう。そして閣下にとっても「身内殺し」は不名誉なことになります。」とヤールは答えた。
「ではどうしろと言うのだ。ハーコン。」
「少し時間を下さい。決して閣下の悪いようにはしません。」とハーコンは言った。
王と家来達はそれから立ち去ったのであった。ヤールのハーコンは難題に頭を悩ませていた。数日してデンマーク王ハラルドがハーコンを訪ねた。
「四六時中考えておりました。ある名案を思いつきました。閣下は今まで通りデンマーク全土を支配し、彼には別の王国を支配してもらうのです。」
「そんな国がどこにあるのだ。」とデンマーク王はハーコンの言葉をいぶかしんだ。
「ノルウェイですよ。ノルウェイの小王達は民に嫌われ、民は王を失墜を望んでおります。」とヤールが答えた。
「ノルウェイは大国だ。しかも民は強い。外国軍が征するには困難な国だ。ハーコン善王がノルウェイを守っていた時はデンマーク軍には大きな被害が及んだ。その上、ハラルド灰色外套王は我が養い子だ。」とデンマーク王は言った。
「何を言っておいでか。閣下はグンヒルドの息子達に援助をした。しかしどうでしょうか、彼らは閣下に後ろ足で砂をかけたのですぞ。何も閣下のデンマーク軍でもってノルウェイを征するのではございません。私には秘策があります。閣下の養い子のハラルド灰色外套王に伝言を伝えるのです。彼に閣下のデンマークを継ぐためにここにきなさいと。」とヤールのハーコンが言った。
「それは我が養い子を裏切る、不名誉な事だ。」とデンマーク王ハラルドが答えた。
「同国人のハラルドを殺害するよりは、異国人のハラルドを殺害する方が良いとデーン人達は口にするでしょう。」とヤールは答えた。
 ある日、「黄金の」ハラルドがヤールのハーコンに相談しにやって来た。
「貴殿にいい話がある。貴殿に王国が用意された。かの地、ノルウェイです。」とヤールのハーコンが「黄金の」ハラルドに言った。
 それぞれの企みはそれぞれで話し合われどんどんと話が進められた。そしてデンマーク王ハラルドはハラルド灰色外套王のもとへ家来を送った。そして家来達がハラルド灰色外套王に言った。
「ハラルド王陛下は明日をも知れぬ状態です。閣下はハラルド灰色外套王陛下にデンマークを引き継ぐようにと切望されております。」と言った。
ハラルド灰色外套王はこの便りを王母グンヒルドと弟達に伝えた。この話を怪しむ者達もいたのだが、当時ノルウェイは食糧が不足し、その反面デンマークは豊作で、デンマークを手に入れることへの望みが勝った。
 夏になるとハラルド灰色外套王は3隻のロングシップでデンマークに向かった。彼はハールシに停泊した。ここでデンマーク王ハラルドと落ち合う手筈であった。「黄金の」ハラルドは9隻の船でそこに向かった。ヤールのハーコンがデンマーク王ハラルドを訪ねた。
「閣下、我らはそこへ行く必要はございません。それどころかこのままでいいのでしょうか。「黄金の」ハラルドがノルウェイを手に入れてそれで大人しくしているとお考えでしょうか。やつめはきっとノルウェイを手に入れ力を得ると閣下に間違いなく背くでしょう。ノルウェイは閣下が手にするのです。2つの民を支配する王になれば閣下は父王を越えることになりますよ。」とヤールのハーコンはデンマーク王ハラルドに言った。
王はヤールのハーコンと同意見になり、「黄金の」ハラルドを首を取りに向かった。
 「黄金の」ハラルドはハールシに行き、ハラルド灰色外套王に戦いを要求した。しかしハラルド灰色外套王は兵力が少なかったため、上陸し家来を集めた。それから戦が行われ、ハラルド灰色外套王はほとんどの家来達と共に戦死した。
 ヤールのハーコンと「黄金の」ハラルドはこの戦い後、しばらくして会戦した。ヤールのハーコンが勝利し、「黄金の」ハラルドを捕らえ、絞首刑にした。この後、デンマーク王ハラルドは全土から徴兵し600隻の軍船でノルウェイに向かった。この旅にはヤールのハーコンとグズレズ王の息子の「グレンランド人の」ハラルド、そしてグンヒルドの息子達に国を追われた有力者達がいた。デンマーク王はノルウェイを手に入れ、ヤールのハーコンにロガランド、ホルザランド、ソグン、いくつかのフィヨルド、南メーラ、ラウムダレ、北メーラの支配権を与えた。この権力は相当なものであった。デンマーク王ハラルドは18歳の「グレンランド人の」ハラルドにヴィングルマルク、ヴェストフォルド、アグジルの領土を王の称号を認めた。この後、デンマーク王ハラルドはデンマークに戻った。
 ヤールのハーコンは軍を連れて北上した。グンヒルドと息子達はそれに対抗する兵を集めようとしたが、それはかなわなかった。彼女たちは西方に向かって再び出国し、オークニー諸島でしばらく滞在した。
 その夏、ヤールのハーコンは北上し、民衆に神殿と血の供犠を守るように命じ、それが行われた。ヤールのハーコンがその地を支配した最初の冬に全岸に鰊がやって来た。そして秋に撒いた作物はたくさんの収穫を生んだ。この時、エイリークの息子の内、存命であったのはラグンフレズ王、グズレズ王、それ以外の息子達である。
 ある春、ラグンフレズが乗る絵うぃに軍船を引き連れて向かった。彼はヤールのハーコンがトロンヘイムにいることを知った。ラグンフレズは南メーラを荒らしたい放題であった。ヤールのハーコンはそれを聞き、一戦いを交えに行った。ヤールのハーコン軍は兵の数は勝っていたものの、船は小さく、ヤールのハーコンにとって戦は不利になった。入江に強い潮の流れが起き、全ての船は陸に流された。ヤールは上陸に相応しい場所に数隻の船を向けた。数隻が座礁するとヤールとその軍兵は船を陸に引き上げ、敵に船を奪われないようにした。ヤールのハーコンはラグンフレズ軍を揺動した。ラグンフレズ軍はヤールのハーコン軍より大きな陣形を取り、しばらく互いに弓を打ち合った。しかしラグンフレズ軍は上陸せず、そこで両軍は別れた。その秋、ハーコンはトロンヘイムで過ごした。ラグンフレズ王はいくつかのフィヨルド、ソグン、ホルダランド、ロガランドを手にいれていた。
 春になるとヤールのハーコンは支配るる場所全てから徴兵した。そして彼は南へ向かい、ラグンフレズ王と対戦した。上陸し戦ったが、ラグンフレズ王が船に逃げ込み、ノルウェイから逃げ去った。
 ヤールのハーコンは有力者のスカギ・スコプタソンの娘のソーラを妻にした。彼らの息子はスヴェイン、ヘミングで、娘は「太鼓腹振りの」エイナルに嫁ぐベルグリョートである。ヤールのハーコンは女好きでたくさんの子供がいた。彼の娘のラグンヒルドはソーラの兄のスコプティに嫁がせた。ヤールはソーラを寵愛したので、ソーラの親族は力を手に入れた。特に孫娘のスコプティは血族の内で発言権のほとんどを握り、メーラの大きな借地を受けていた。そして彼らが共に戦に行く時は、スコプティはヤールのそばにいつも船を着け、誰もその間に停泊することはできなかった。
 ある夏、ヤールのハーコンは海に出た。それには「賢い」ソルレイヴと10歳か11歳のエイリークがいた。そして夕方に南メーラで彼らは停泊した。そこへスコプティが船でやってきてエイリークに停泊場所を譲るように言った。しかしエイリークは逆らって彼に場所を譲らなかった。ヤールは息子のエイリークがスコプティに場所を譲らないほど強くなったと感じ、事を音便にするために「賢い」ソルレイヴに命ずると彼は船を移し、スコプティがヤールのハーコンのそばに停泊した。スコプティはヤールのハーコンにいつものように自らの持つ情報を伝えた。それゆえ彼は「情報の」スコプティと言われていた。次の冬にエイリークは養父ソルレイヴと過ごし、早春にエイリークは家来を得て15漕手席の船を養父から譲り受けた。それからエイリークは「情報の」スコプティと戦い、その首を取った。この戦い後、エイリークはデンマークに向かい、デンマーク王ハラルド青歯王のもとで冬を過ごした。そして次ぎの春にデンマーク王ハラルドはエイリークにヤールの称号を与え、ノルウェイに派遣した。副王が依然にしていたように統治するためのヴィングルマルクとラウマリーキを与えた。ヤールのエイリークは後に医大の首領になった。
 オーラヴ・トリュグヴァッソンはこれらの話の間はヴァルデマール王と王妃の庇護の下ガルダリーキにいた。ヴァルデマール王は彼を国を守らせるために首領にし、オーラヴは彼の要求に見事答えていた。オーラヴは王から受けた報酬により多くの家来を抱えていた。オーラヴは家来達に気前が良かったので、たくさんの外国人が彼のもとにやって来た。そして彼は王や王妃からひいきにされていたので、ガルダリーキの民がそれをよしとせず王に横槍を入れる者達が多かった。王妃とオーラヴが結託していると王にあらぬことを吹き込みやからがいた。王はオーラヴに冷たくなり、オーラヴはノルウェイに戻りたいと王妃に要求した。オーラヴはこうしてガルダリーキを後にしたのであった。
 オーラヴは家来達を乗せた船でボルグンダルホルムに上陸し、略奪した。その後、悪天候に見舞われたので南のヴェンドランドに平和的に向い、そこで大人しく過ごしていた。ヴェンドランドの王はブリスラヴで、王の娘はゲイラ、グンヒルド、アーストリーズである。ゲイラ王女は領土を持ち、オーラヴが過ごしていた場所の領主であった。ゲイラ女王の最高顧問はディクソンである。見慣れない外国人が品のある振る舞いをして平和的にして過ごしていると王女の耳に入った。彼女はディクソンを遣わせた。ディクソンはその集団を指揮する者が育ちも良く、容姿もいいことが判った。彼はオーラヴ達にすぐに冬が訪れるので、王女のもとで過ごすように申し出た。オーラヴはそれを受けて冬の間はゲイラ王女のもとで過ごした。オーラヴがゲイラ王女に求婚し、その冬にオーラヴはゲイラと結婚した。彼は王女と共にその国を統治した。
 ヤールのハーコンは全ノルウェイを支配していた。彼はグンヒルドの息子達の攻撃から国を守っており、その経費がかさんだので彼はデンマーク王に税を支払っていなかった。
 その当時、サクソランドを統治していたのはオットー大帝である。皇帝はデンマーク・ハラルド青歯王とその民がキリスト教を享受するように圧力をかけた。デンマーク王ハラルドは兵を整え、ダネビアケ(デーン人の細工という意味の防塁)を守備し、船も整えた。そしてすぐにデンマーク王ハラルドはノルウェイのヤールのハーコンに可能な限りの兵力をもって来るようにと命じた。春にヤールのハーコンは大軍団でデンマークに向かった。
 オーラヴ・トリュグヴァッソンは事実上ヴェンドランドの支配者であった。その間にもヴァイキング行きを繰り返し多くの財を手に入れた。オットー大帝は大軍団を引き連れてデンマークに向かっていた。その軍団の中にブリスラウ王と共にオーラヴは参加していた。皇帝軍は騎馬と歩兵で構成されていた。オットー大帝はヤールのハーコンが守備する南側を攻撃した。この時、大きな戦が3度行われた。ヤールのハーコンはダネビアケの門のいくつかを守備した。皇帝軍はどの門も撃破できなかった。そして皇帝軍は去り、ヤールのハーコンもノルウェイに戻ろうとリムフィヨルドで風を待っていた。
 オットー大帝はシュレスヴィヒに皇帝軍を連れて戻った。皇帝はそこで戦艦を引き出し、ユトランドに向かった。デンマーク王ハラルドはその情報を受けるとすぐに軍隊を連れて皇帝軍を迎え討ちに向かった。大きな戦いとなり、ついに皇帝軍が勝利した。そしてデンマーク王ハラルドはリムフィヨルドに逃げ戻り、その中の大きな島のモルセに身を寄せた。使者達が皇帝と王の間を行き交い、和平と会合が手配された。オットー大帝はデンマーク王ハラルドとモルセで会合を行い、司教ポパがハラルド王に真の信仰を教えた。司教は手に赤くなった鉄を握り、ハラルド王に火傷していないことを証明した。ハラルド王は従い、全デンマーク軍は洗礼した。この前にデンマーク王はヤールのハーコンに援助を求めて遣いをやっており、彼は洗礼したデンマーク王を訪れた。デンマーク王はヤールのハーコンとその家来達を洗礼し、数名の司祭と学者を与えた。デンマーク王はヤールのハーコンにノルウェイの布教を命じた。この後、ヤールのハーコンは立ち去った。ヤールのハーコンはノルウェイに戻る風を待っていた。風が吹いた時、彼は司祭と学者を陸に向かって追い返した。ヤールのハーコンはノルウェイに戻るまえにデンマーク・スカニアを襲撃し、略奪した。彼は東スウェーデンに沿って航行している時、上陸しそこで大きな血の供犠を行った。その供犠の場所の上を2羽の鴉が飛来し、激しく鳴いていた。ヤールのハーコンはオーディンがこの供犠を満足して受け取ったと理解し、戦の勝利を手に入れるだろうと予感した。ヤールのハーコンは全ての船を焼き払い、全軍を陸路で侵略した。そこにガウトランドのヤールのオッタが迎え討ってきた。激しい戦いの後、ヤールのハーコンが勝利し、ヤールのオッタと莫大な戦士達は戦死した。ヤールのハーコンはノルウェイに到着するまで戦の盾を掲げてガウトランド中を進軍した。トロンヘイムへは陸路で入った。オットー大帝は自らの国のサクソランドに戻った。オットー皇帝はデンマーク王ハラルドの息子のスヴェイン(後の二叉髭王)の名付け王になった。彼は洗礼を施され、「オットー」スヴェインと呼ばれた。デンマーク王ハラルドは生涯キリスト教徒であった。ブリスラヴ王は娘婿のオーラヴ・トリュグヴァッソンと共にヴェンドランドに戻った。オーラヴは妻のゲイラが死に至る病に陥るまでヴェンドランドで3年過ごした。彼は妻の死を嘆き、この国にいることはいたたまれないと思い国を去った。船に人員を配し、戦いの日々に戻った。彼はフリースランド、フランダース、サクソランドを略奪した。
 この後、彼はイングランドに向かい、そこも襲撃した。彼はノーサンブリアに向かい、スコットランドまで北上して略奪した。そこからヘブリデース諸島に行き、一戦を交えた。その後、マン島に船を進め、そこでも戦いを行った。彼はまたアイルランドをも襲撃した。それからウェールズに向かい、その地とカンベルランド(イングランド北西部の州)を大いに略奪した。そして彼はイングランドの西のシリー諸島へ到着した。オーラヴはヴェンドランドを出発し、このシリー諸島に到着するまでの4年間、戦いに明け暮れていた。
 オーラヴがシリー諸島で滞在していた時、そこにたくさんの者達から信頼を受ける隠者の千里眼がいると知った。オーラヴはこの者の千里眼を試したいと思った。彼は家来の中から自らに似せて容姿もよく立派な体躯の者に見事な衣装を着せて送り出した。オーラヴはロシアを後にしてからオーラヴの前から3つ取ってオーラというバレバレの名前を名乗り(この部分はOla(オーラヴはOlafr)。もう一度、後で通り名が出てくるがなぜかAlaである。それゆえ前の部分も後ろの部分もア(ー)リにしている訳者もいる。前も後ろもオーレにしている訳者もいる。なんで1度目2度目はオーラで、3度目がアーラなのかは、スノリのみ知る、である。実に不思議。でもバレバレの名前語るとは、これいかに。)、ロシア人であると言っていた。使いの者が千里眼者に会い、自ら王であると言った。
「いや違う。貴殿は王ではない。しかし貴殿は仕える王に実に忠実なよき家来だ。」と千里眼が言った。
そして家来が戻り、事の次第を全てオーラヴに伝え、オーラヴは彼に興味を持った。そして彼自ら千里眼に会いに行った。
「俺は王国を手に入れるだろうか。」とオーラヴが訊ねた。
「貴殿は王になり、輝かしい業績を上げるでしょう。貴殿は多くの者達を真実に導き、キリスト教徒になるでしょう。それにより貴殿は自らと多くの者達を救済するだろう。貴殿は自らの言葉を信じ、この証を手に入れるだろう。」
そして千里眼は話を続けた。
「我が言葉が真実であるとすぐにわかるでしょう。貴殿はここから船に戻るまでに敵に出くわし、数名の家来を失い、貴殿も傷つくでしょう。この傷は深く命に関わるものであるが、死の淵に立つ貴殿は盾で船に運ばれる。そstie7晩後に死の淵から戻ってくるでしょう。そして貴殿はすぐに洗礼すると私は予言します。」と千里眼が言葉を終えた。
 この後、オラーヴは船に戻った。その途中、敵に襲われた。千里眼が予言した通りになった。オーラヴは千里眼の言葉が真実であったと理解した。怪我が回復した後に彼は隠者の千里眼に会いに行き、様々な事を注意深く訊ね、時間を割いて多く語らいあった。隠者はキリストの教えをオーラヴに教え、キリストのなせる技を伝えた。ついにオーラヴは洗礼することに同意し、オーラヴと家来達は全て洗礼した。オーラヴは長く彼のもとで教えを受け、信心深いキリスト教徒になった。
 キリスト教徒となったオーラヴはシリー諸島からキリスト教の国のイングランドを平和的に船を走らせた。そしてそこでシングの招集の情報を得た。そのシングにはアイルランド・ダブリン王のアンラフ・キュアランの姉妹のギューザという女王がやって来た。彼女はイングランドの有力者のヤールに嫁いでいたのだが、夫が亡くなり、彼女は夫の領土を継いで統治していた。彼女の国には大戦士で決闘の戦士のアルヴィニという者がいた。彼は王女に求婚していたのだが、彼女は自らの夫は自らで決めると言い、夫選びのこのシングが開催された。最高の衣装を身につけたアルヴィニがそこにいた。それ以外の者達も着飾って参加していた。オーラヴはそのシングを遠巻きにぼさぼさの格好で参加せず眺めていた。ギューザは求婚者達を値踏みして回った。彼女はオーラヴに近づいて名前を聞いた。オーラヴはオーラと名乗り、外国人であると告げた。
「そうね、あなたにします。」とギューザ王女は言ってオーラヴを指名した。
オーラヴはその申し出を断らず、話はとんとん拍子で決まった。これにムッとしたのは前述のアルヴィニである。彼はオーラヴに決闘を挑んだ。イングランド式決闘が手配された。両側に12名を並べて向かい合わせた。オーラヴは家来達に自らと同じ行動をするように家来達に命じた。彼は大きな斧を手にした。そしてアルヴィニが剣で打ちかかかってきた時、オーラヴが受け、アルヴィニの手から剣がふっとんだ。2度目の攻撃でオーラヴはアルヴィニを任せて地面に倒れさせた。そしてすぐにオーラヴは彼を縛った。アルヴィニの家来達は皆震え上がり、縛られてオーラヴの屋敷に連れて行かれた。オーラヴはアルヴィニに国外追放を命じ、彼の財産全てを手に入れた。
 オーラヴとギューザは結婚し、アイルランドとイングランドをいったり来たりして過ごした。ある時、オーラヴがアイルランドのある場所を襲撃した。家来達は上陸してたくさんの家畜を盗み出して連れていこうとした。そこへその地の農夫がやって来た。
「おねげぇしますだ。オラの牛をかえしてくだせぇ。」と農夫がオーラヴに頼んだ。
「そうだな、もしお前の牛を間違いなく選び出すことができるのであればそうしよう。だが、我らはここでゆっくりとしている暇はない。」とオーラヴが言った。
農夫は飼っている牧羊犬のコリーに指図した。犬は牛の群をぐるぐる回ったかと思うと数頭選び出した。選び出された牛は全て同じ烙印が押され、それが農夫のものであると証明されたと同時に犬の優秀さを証明した。
「この犬を譲ってはくれまいか。」とオーラヴが言った。
農夫は喜んでオーラヴに犬を譲った。そのお礼としてオーラヴは農夫に黄金の環を譲り、友情を誓った。その犬の名前はヴィーギといい、優秀な犬であった。オーラヴはこの後、犬が死ぬまでずっと飼っていた。
 デンマーク王ハラルドはヤールのハーコンが背き、キリスト教を放棄し、デンマークの至る所を略奪したことへの報復としてノルウェイのヤールのハーコンの統治する領土を襲撃し、火をつけて回ったのであった。デンマーク王ハラルドの息子のスヴェインは父王に国を要求した。しかしハラルド王はずっと王国の割譲を認めなかったので、息子は武力を持って手に入れようととした。スヴェイン軍にヨムスヴァイキングのパールナ・トーキが参加した。スヴェインはシェラン島のフィヨルドで父王ハラルドと戦った。しかしスヴェイン軍の兵がハラルド王軍に寝返ったため、スヴェインは敗走に転じた。ハラルド王は負傷して、その傷で命を落とした。そしてスヴェインがその後を継いでデンマーク王になった。
 その当時のヴェンドランドのヨムスボルグのヤールはシグヴァルディであった。彼はスカニアを統治している「尖り帽子の」ハラルド王の息子で、彼の兄弟はヘミングと「背高」ソルケルであった。そこにはまた、ボルグンダルホルムの「大きな」ブーイとその兄弟のシグルズが首領としてヨムスヴァイキングに組みしていた。そこにはアーキの息子のヴァグンとブーアとシグルズの姉妹の息子のソルグンナもいた。ヤールのシグヴァルディはスヴェイン王を捕虜として捕らえ、ヨムスボルグに連れて行き、ヴェンド人のブリスラヴと和解するように圧力をかけた。ヤールのシグヴァルディはブリスラヴ王の娘と結婚していたからである。スヴェイン王はヴェンド人に処刑されるか、和平かを迫られて後者を選んだ。彼はブリスラヴ王の娘のグンヒルドを娶り、ブリスラヴ王はスヴェイン王の姉妹のチューリとの結婚が決められた。それぞれは王国を保持し、外交は安定した。この後にスヴェイン王は妻のグンヒルドと共にデンマークに戻った。彼らの息子はハラルドと後の北海大王の「強い」クヌートである。この頃、しばしばデーン人はノルウェイを襲撃し、平和を脅かしていた。
 スヴェイン王は大宴会を行い、全土の首領達を招集した。彼は父王ハラルドの遺産を引き継いだ。この少し前に「大きな」ブーイの父のスカニア・ボルグンダルホルムのヴェセティの「尖り帽子の」ハラルドも亡くなった。王はヤールのシグヴァルディとその兄弟のブーイに彼らの父の財産を相続するためにこの宴会に来るようにと命を送った。ヨムスヴァイキングは最も勇敢な軍団で宴に向かった。そしてたくさんの人々がそこに集った。
 宴の初日にスヴェイン王が玉座に進む前に思い出の杯を飲み干した。
「我は誓おう。3年以内に軍隊を率いてイングランドに向かい、エセルレッド王を殺害するかイングランドから追放する。」
思い出の杯はその場にいた者達にも飲み干された。ヨムスヴァイキングの首領達には角杯に注いだ強い酒が振る舞われた。
「イエス・キリストに。」と人々は神を祝福して杯を空けた。
3度目に聖ミカエルの杯が飲み干された。
「俺は3年以内にノルウェイに向かい、ヤールのハーコンを殺害するかノルウェイから追放する。」とヤールのシグヴァルディが誓った。
「俺は兄貴に従い、ノルウェイに向かう。そして兄貴が戦っている間は敵に背を見せぬ。」と「背高」トルケルが誓った。
「俺は彼らに従い、ノルウェイに向かう。そしてヤールのハーコンと勇敢に戦う。」と「大きな」ブーイが誓った。
「俺はノルウェイに向かい、ヨムスヴァイキングが倒れるまで敵に背を向けない。」とブーイの兄弟のシグルズが誓った。
「俺はノルウェイに向かい、「ぬかるみの」ソルケルを殺害し、その娘のインゲビェルグをものにするまで国には戻らぬ。」とヴァグン・ア=カソンンが誓った。
そしてそれ以外の首領達もそれぞれ自らの誓いを立てたのであった。しかしある日、酒もすっかり抜けてしまうと彼らは無謀な誓いを立てたと地飼うしたのであった。そして集会が行われて今後の行く末を相談した。彼らはできるだけ早く軍備を整えることを同意した。その噂は広く知られることとなった。
 ヤールのハーコンの息子のエイリークはラウマリーキでこの情報を得た。彼はすぐに兵を集めオプランドへ行き、父のヤールのハーコンのいるトロンヘイムに向かった。ヤールのハーコンとヤールのエイリークはトロンドロー中に戦の矢を撃ち、北南のメーラとナウムスダレとラウムスダレに徴兵令を出した。ヤールのハーコンはすぐに南メーラに偵察隊を送り出し、エイリークは軍隊を連れて南に向かった。
 ヨムスヴァイキングは軍隊を連れてリムフィヨルドに向かった。そこからノルウェイに向けて60隻の船でノルウェイに向かった。彼らはヤールのハーコンの領土のつくとすぐに略奪を始めた。彼らは戦の盾を掲げて北に向かった。ゲイムンドという快走船を操る者がヤールのハーコンに敵の情報を伝えた。
「それは本当なのか。」とヤールのハーコンが訊ねた。
「これがその証拠です。」とゲイムンドは答え、手首から先が切り落とされた片方の腕を突き出した。
「そしてやつらは実に強くてしぶとい。行動も早く、実に厄介です。ここに来るのも時間の問題です。」と彼は続けて言った。
ヤールのハーコンは片時も休まず船を進ませ、フィヨルド中を自らの目で確かめた。
 ヤールのシグヴァルディはスタッドあたりに軍団と船団を近づけた。まず最初にヘレイスに行った。彼らはその地の者達にヤールの居所を訊ねたが誰もそれを彼らに情報を漏らさなかった。彼らは家畜を略奪し、刃向かう者には容赦しなかった。そこへ1人の農夫がやってきた。
「あんた方は戦士とは名ばかりだな。牛と子牛のケツばかり追いかけて。あんたらは熊を捕らえようとは思わんのか。」と農夫が彼らに言った。
「何の話だ。さてはヤールのハーコンを差しているのだな。」と彼らは言った。
「昨日だ。ヤールはヒョルンダルフィョルドに向かった。ヤールの船は3隻以上ではなかったな。そしてヤールはあんた方のことは何も聞かなかった。」
ブーイと家来達はすぐに船に向かった。彼らは戦利品を全て置いていったのであった。
 ヤールのハーコンと息子のエイリークは全軍が集結するハルケルスヴィクにいた。彼らの船団は150隻からなっていた。それから彼らはヨムスヴァイキングがホッドあたりにいると情報を得た。それからヤールは彼らの所へ向かい、彼らと出会い、会戦した。ヤールのシグヴァルディは軍の中央に位置していた。そこに向かってヤールのハーコンは船を配列させた。ハーコンは60隻持ち、ヤールのシグヴァルディは20隻であった。ヤールのハーコンの軍団にはハロガランドの「赤鹿の」ソーリ、ギムサルのスチュルカールという首領がいた。シグヴァルディ軍の一翼に20隻の船と共に「大きな」ブーイと兄弟のシグルズがいた。それに対峙して60隻の船を伴うヤールのエイリーク・ハーコンソンがいた。彼にはオプランドの「白の」グズブランドとヴィクの「ぬかるみの」ソルケルが従った。ヨムスヴァイキングのもう片翼は20隻を伴うヴァグン・アーカソンがその前にいた。それに対峙してスヴェイン・ハーコンソンが60隻の船と共にイリュムのオプハウグのスケッギとスタッドのエルヴィークの出身のラグンヴァルドがいた。
 そして始まった戦は激しく厳しいものであった。両軍で多くの戦死者が出た。ヨムスヴァイキングは職業戦士であったので激しく勇敢に戦い、それゆえにヤールのハーコン軍に多くの死者がでた。ヤールのハーコンに一斉に敵が襲いかかってきたので、彼のチェーンメールは役に立たなくなるほど傷ついたので彼はそれを脱ぎ捨てた。ヨムスヴァイキングは有利な船を所有していたので、有利に戦を進めた。ヴァグン・アーカソンがスヴェイン・ハーコンソンを激しく攻撃したので、彼はそこから逃げ出した。そこへヤールのエイリークが助け船を出した。ヴァグンは引いたのでエイリークもまた引いた。そしてブーイは逃亡者を追いかけ、エイリークはブーイの船に並び、斧の激しい戦いが起こった。エイリークの船が数隻ブーイの船に向かってきた。すると嵐が起き、大きな雹が激しく降った。シグヴァルディは逃げるかのように船の向きを変えた。
「逃げる気か、卑怯者め。戻れ。」とヴァグン・アーカソンが怒鳴った。
しかしシグヴァルディは彼の言葉を聞く様子がなかったので、ヴァグンは槍を彼に向かって投げた。ヤールのシグヴァルディは35隻の船を連れて漕ぎ去った。後には25隻がノコされた。それからヤールのハーコンはブーイのもう片側へ船を止め、ブーイの家来達は激しく抵抗した。ヴィーガ・グルームの息子のヴィーガフースは鉄床を持ち上げると「中州の禿頭の」アースラーキに投げつけた。それは頭にめり込んだ。彼はそれまで無傷で激しく戦っていた。彼はブーイの養い子で船首の要員であった。彼以外にはそこには「着るもの」ホーヴァルズがいた。この戦の間、エイリークの息子達はブーイの船に押し掛け、ブーイを船尾に追いつめた。そして「腰長の」ソルステインはブーイの顔を鼻防具を切り裂くように打ちつけた。それは大きな傷となった。ブーイはトルステインの脇腹を攻撃し、真っ二つに体を引き裂いた。そしてブーイは宝で一杯の2つのチェストを持ち上げて叫んだ。
「船外に出ろ。我が家来達よ。」と彼は命じると、ひらりと海中に飛び込んだ。
こうしてブーイの船が片づけられた。ヤールのエイリークはヴァグンの船と戦った。ついにヴァグンは捕らえられた。彼らは縛り上げられて浜に連れて行かれた。そこへ「ぬかるみの」ソルケルがやって来た。
「ヴァグンよ。お前はわしを殺害しようと誓ったが、どうやらわしがお前を殺す方が現実的じゃな。」とソルケルが言った。
ヴァグンと彼の家来達は一本の木の幹に座らされていた。ソルケルは大きな斧を手にしていた。1人の男が勇敢に処刑され、首が飛んだ。そしてソルケルが次ぎに処刑する者に目をやった。その捕虜は見事な髪の持ち主の容姿のいい男であった。彼は髪を後ろに払い、首を突き出して言った。
「俺の髪を血で染めるなよ。」
それから1人の男が髪をしっかりと握り、ソルケルが打とうと斧を振り下ろした。すると捕虜はぐいっと強く引っ張ったので、髪を掴んでいた者がよろめき、その手の上に斧が落ちた。処刑の手伝いをした者の手がふっとんだ。それからヤールのエイリークがその男に近づいて訊ねた。
「誰だ。」
「シグルドだ。ブーイの息子だ。この程度でヨムスヴァイキングを亡ぼしたと思うな。」と彼は言った。
「なるほどブーイの息子に違いない。どうだ、折り合いをつけるか。」とエイリークが言った。
「申し出る者によるな。」
「ヤールのエイリークが申し出よう。」
「それならば引き受けよう。」
そして彼はロープから放たれた。それを見た「ぬかるみの」ソルケルが言った。
「ヤール、この者達を自由にすることは貴殿の命を危うくすることになりましょうぞ。このわしがこやつの首を取りましょう。」と彼は叫んで斧を振り上げて突撃した。
するとヨムスヴァイキングのスカルジがソルケルの前に倒れ込み、ソルケルはそれにつまずいて転けた。ヴァグンはすぐに斧を掴み、ソルケルを殺害した。
「ヴァグン、お前は折り合いをつける気があるのか。」とヤールが言った。
「受けましょう。もし我が同胞全ての命の保証がされるのであれば。」と彼は答えた。
「ロープを解け。」とヤールが言った。
折り合いがつけられた。18名が殺害され、12名が首がつながったのであった。
 ヤールのハーコンとたくさんの家来達が木の幹に座っていた。そしてブーイの船上で矢が音を立てて飛んだ。それはヤールの隣に座っていた領主のヴァルデル人のギズルに矢が突き刺さった。彼らは矢が飛んできた方向に目をやった。足に傷を受けた者が立て膝で立ち弓を握っていた。彼は「切る者の」ハーヴァルズであった。
「木の幹から転げ落ちた奴は誰だ。」と彼は訊ねた。
「ギスルだ。」と答えた。
「どうやらわしには運がなさそうだ。」とハーヴァルズが言った。
「そうだな。お前は不運に満ちている。お前はそれ以上の攻撃はできまい。」と彼らは言った。
そして彼を殺害し、戦利品が持ち去られた。25隻のヨムスヴァイキングの船が立ち去った。こうして戦は集結した。ヤールのハーコンはトロンヘイムに戻り、エイリークがヴァグン・アーカソンに助命した事を非難した。ヤールのエイリークはヴァグン・アーカソンを連れてウプランドを行き、エイリークはヴァグンに「ぬかるみの」インゲビェルグを嫁がせ、ロングシップを与えた。そしてヴァグンはデンマークに戻り、彼は有名人になった。そして彼のもとにたくさんの有力者が集まってきたのであった。
 話はヴェストフォルドを統治していた「グレンランド人の」ハラルドに向けられる。彼は「瘤の」グズブランドの娘のアースタを妻にした。ある夏、彼はバルト海を荒らし、スウェーデンに戦利品をもって帰ってきた。スウェーデン王オーラヴがその当時の王であった。彼はエイリーク常勝王と「戦の」トースティの娘のシグリーズの子供であった。エイリーク常勝王亡き後、シグリーズは未亡人で、スウェーデンでの多くの財産を保持していた。そして彼女は乳兄弟の「グレンランド人の」ハラルドが近くに来ていることを知り、使いをよこした。「グレンランド人の」ハラルドはすぐに彼女の屋敷に駆けつけた。王と女王は高座に座り、酒を酌み交わしていた。何日か宴に興じていると、ハラルドは自身の境遇と彼女の境遇を比べ、自らの惨めさに落ち込んでいった。そして別れの日、女王は彼にたくさんの贈り物を与えて送り出した。その秋にハラルドはノルウェイに戻った。彼はその冬は国で静かにしていたが、次ぎの夏に家来達と共にスウェーデンに船で向かった。彼は彼女を招待すると、彼女はすぐに馬で彼のもとへ行った。
「結婚しないか。」とハラルドが言った。
「何いってんの。あなたにはアースタがいるじゃない。彼女は器量よしじゃない。」とシグリーズが答えた。
「妻は私ほど血筋がよくない。」
「そぉ?でもあなたは彼女よりいい血筋じゃない。あなた方ご夫婦は将来は明るいと想うわよ。」
とシグリーズはとんちんかんな答を返して断った。そうして彼女は馬で立ち去った。それからハラルドはまたシグリーズに会いたいと望んだ。しかしそれを止める家来達もいた。彼は忠告を振り切ってシグリーズに会いに出かけた。同じ晩、彼女の館には彼以外の王がきていた。彼はヴィッサヴァルドと言い、ガルダリーキの者であった。彼は彼女に求婚しにきていた。王達と全てのその家来達は大きいが古い館を勧められた。館の備品も全て古かった。そこでは大いに酒が飲まれ、皆は泥酔した。夜も更けた頃、シグリーズは王達が泥酔した館に火をつけさせた。
「じょーだんじゃないわよ。なんでこんなちっぽけな王にいいよられなきゃいけないのよぉ。」と彼女ははき捨てた。
この事件以来、彼女に求婚するちゅーと半端な小王はいなくなった。こうして彼女は「意志の強い」シグリーズと呼ばれるようになった。これはヨムスヴァイキングの既述の戦い後の出来事である。
 ハラルドがその地に向かった時、ラニは数隻の船の面倒を見るために指揮官として残されていた。彼は「グレンランド人の」ハラルド王の死を知ると国に戻り、アースタ妃に伝えた。アースタ妃は事の次第を聞きとげると実家のオプランドの父のもとへ身を寄せた。この夏にアースタは1人の息子を生んだ。赤ん坊はオーラヴ(聖オーラヴ)と名付けられた。
 ヤールのハーコンは海沿を支配し、16州を統治し、16名のヤールを所有していた。ヤールのハーコンがノルウェイを収めている間は季節もよく、農夫達は平和に過ごしていた。ヤールの人生の大部分を農夫に助けられていた。しかし時が流れ、農夫達はヤールの女好きにほとほとあいそをつかせた。ヤールは有力者の娘を連れ去って1〜2週間過ごしたかと想うと、実家に戻らせるというあきれた事を行っていた。こうして彼に対する反感がわき上がってきた。
 ヤールのハーコンはアーリ(これまでの2度はオーラ。なぜに?)と名乗り、王のように振る舞う者が西方にいることを知った。そしてヤールのいくつかの情報からその者が北欧の王家の末裔であると推測した。アーリはガルダリーキ人という話であったが、トリュヴィ・オーラヴソンの息子がガルダリーキに行き、そこで育ち、オーラヴという名であったというのはバレバレであった。ヤールのハーコンは親友でヴァイキングであり交易者であるソーリを呼び寄せ、西方に行き、オーラヴを探しだし、彼が本当にノルウェイ王家の者であれば始末しろと言った。
 すぐにソーリはアイルランドのダブリンに向かい、アンラフ・キュアランのもとにいるアーリについて訊ねた。この後にソーリはオーラヴと話をする機会を持った。アーリはまずオプランドの王達について詳しく訊ねてきた。そしてヤールのハーコンがノルウェイでどれほど民衆に支持されているかどうか訊ねた。
「ヤールは強いお方です。誰も彼には逆らえません。それは単にノルウェイに彼以外の権力者がいないということだけなのです。しかしノルウェイの民は待っています。ハラルド美髪王の血を引く者の到来を。」とソールが答えた。
そして彼らは繰り返し話をした。ついにオーラヴは彼に全てを打ち明けた。オーラヴはソーリに自らがノルウェイの地を踏めば、王になる見込みがあるかどうか訊ねた。ソーリはオーラヴに是非とも国に戻って王になるように強くすすめた。
 そしてついにオーラヴはノルウェイに戻る決心をした。彼はヘブリデース諸島を経由してオークニー諸島に到着した。そしてオーラヴはその地のヤールのシグルズ・ロズリッソンを呼び出した。オーラヴはこの地の民が全て洗礼をしなければ直ちに命を落とすことになると脅迫した。そして他の選択肢がなかったヤールは洗礼し、全ての民もそうした。この後にヤールはオーラヴの家来になり、息子を人質として差し出した。オーラヴはノルウェイに向けて再び帆を揚げた。オーラヴはノルウェイで最初に上陸したモステルそばの海岸で天幕を張り、ミサを行った。オーラヴは迅速にヤールのもとへ向かった。そして彼らがアグデネスに到着した時、ヤールのハーコンの情報を得た。そして農夫達がヤールのそばにいないことも聞き知った。そしてヤールはノルウェイに平穏を与え、農夫達に感謝されていたが、今や彼は農夫達から嫌われているとも知ったのであった。
 ヤールのハーコンはグラルダルのメザルフースで宴の席にいた。彼の船はフィヨルドに止めてあった。そこには豪農の「前髪の」オルムが住んでいた。彼にはルンダルの太陽と誉れ高いグズルーンという超美人妻がいた。ヤールはオルムの妻をよこすようにとの命を持たせて奴隷達を送り出した。奴隷達はオルムの屋敷に到着した。しかしオルムは彼らにグズルーンは引き渡さない事、リモルのソーラを彼女の侍女にしない限り決してヤールのもとへ行きはしないと言った。ソーラは強い女性でヤールの愛人の1人であった。奴隷達はヤールに脅しの言葉を残して立ち去った。そしてすぐにオルムは戦の矢を切った。この前にヤールはブリニョールヴという者の妻を連れ去っていたので、実に多くの恨みをかっており、一斉蜂起は容易いものであった。軍団はすぐにメザルフースに向かった。しかしヤールがその情報を得てヤールスダルに逃げ込んだ。次ぎの日、ヤールは農夫軍に警戒した。ヤールの息子のエルレンドがヤールの船の面倒を見ていた。ヤールはメーラで息子と落ち合う計画をたて、それを伝えるために家来を出した。この後、ヤールはカルクという奴隷を連れて洞窟に逃げ込んだ。そこでその晩の睡眠を取った。その晩、カルクは1人の野蛮な男がやって来て「ウルリは死んだ」と言った夢を見た。この夢をヤールに伝えると、ヤールはそれをエルレンドが殺害される前兆だと考えた。再び、カルクは眠りについて夢を見た。それは同じ男が落下する夢であった。ヤールはこの夢を自らの運命であると理解した。彼らはすぐにリモル屋敷に向かった。それからヤールはソーラにカルクを遣わせ、こっそりとこの洞窟に来るように伝えた。彼女はヤールに誰にも見つからない場所に匿うと言った。
「豚小屋よ。絶対に見つからないわ。」
「今の我らの境遇にぴったりな場所だ。しかし手段を選ぶ余裕などない。」とヤールが言った。
ヤールは彼女にオーラヴ・トリュグヴァッソンが息子のエルリングを殺害する可能性があると伝えた。豚小屋に大きな穴が掘られ、その上に板を張り、汚物を撒いて隠した。ヤールとカルクはその穴の中に匿われた。オーラヴ・トリュグヴァッソンがフィヨルドに入った。そしてヤールのハーコンの息子のエルレンドがそれを見つけ一度はオーラヴに向けて船を進ませたが、不穏な空気を感じとって陸に船首を向けた。オーラヴはそこにハーコンがいるに違いないと考え、彼らを追わせた。エルレンドの家来達が着眼しようとした時に、船を降りるように言った。それからオーラヴ王の船が追いつき、1人の容姿のいい男が泳いでいるのを見た。彼は舵柄をその男に投げつけた。それがエルレンドの頭に強打し、彼の頭が裂けた。そして彼の家来達も多く殺害された。
 オーラヴは捕虜にしたエルレンドの家来達からヤールのハーコンの情報、農夫軍の情報を得て、好機とみなし農夫軍に会いに行った。農夫軍はオーラヴを歓迎し、ヤールのハーコンを探し出すことに同意した。彼らはヤールがリモルのソーラの館にいるに違いないと言った。それからオーラヴはシングを行い、豚小屋近くの岩場に立った。オーラヴは演説し、やーるのハーコンを殺害すれば栄誉と財産が手に入ると熱演した。そして豚小屋の下にいたヤールとカルクにこの演説が聞こえたのであった。
「なぜお前は顔面蒼白なんだ。よもや私を裏切るのではあるまいな。」とヤールが言った。
「とんでもねぇです。」とカルクは答えた。
「我らは一晩耐えた。なにすぐによくなるさ。」とヤールが言った。
夕暮れになるとオーラヴ達は立ち去った。夜、再びカルクは夢を見た。そしてヤールが内容を訊ねた。
「あっしがラーザにいて、オーラヴ・トリュグヴァッソンがあっしの首に黄金を着けた。」とカルクがいった。
「お前がやつに会えば、やつはお前に血の赤い首輪を着けるだろうよ。私を裏切るな。さすれば以前のように多くのものを手にすることができるぞ。」とヤールが言った。
その晩、互いに互いを見張るかのように起き続けた。しかし昼になってヤールがうとうとすると、ヤールがもそっと動いた。カルクはその動きに恐怖し、悲鳴を上げてベルトからナイフを取り出すとヤールの首をかき切った。こうしてヤールは最期を迎えたのであった。そしてカルクはヤールの首を落とすとその首をもってオーラヴ・トリュグヴァッソンのもとへ向かった。カルクはオーラヴにいままでの事をつらつらと流暢に語った。
「主を裏切る者は信用できぬわ。この者の首を跳ねろ。」とオーラヴが言った。
カルクは連れ去られ、首を跳ねられたのであった。
 オーラヴ王とたくさんの農夫達はニダルホルムに向かった。王はヤールのハーコンとカルクの首を持っていった。そこには盗人と重犯罪を犯した者の処刑場があった。そこでさらし首にした。たくさんの者達が首にののしり、石を投げた。
 オーラヴ王はトロンヘイムの通常シングでハラルド美髪王が収めた領土全てを受け継いだ。皆は同意し、誰も反対しなかった。以前にデンマークになびいていたオプランドとヴィクの首領達でさえそれを歓迎したのである。ヤールのハーコンの息子のヤールのエイリークとスヴェイン、それ以外の血族達は土地を追われ、スウェーデン王オーラヴを訊ね、保護された。
 ロジンというヴィク出身の良家の出の男がいた。彼は公益者でもあり、ヴァイキングでもあった。ある夏に彼はバルト海に交易に出た。エストランドの市で1人の奴隷女を見つけた。彼は彼女がトリュッグィ王に嫁いだアーストリズであると判った。しかし今や彼女は昔の面影もなく、やせ衰え、青白く生気がなかった。この時、ロジンは彼女に結婚してくれるのであれば身請けしようと彼女に言った。彼女は迷ったがロジンは申し分のない家柄で、勇敢で豊かな者であることを知っていたので承諾した。彼は彼女をノルウェイに連れて帰り、結婚した。
 デンマーク・ハラルド青歯王はキリスト教の布教にいそしみ、従わぬ者は罰した。彼はノルウェイにウルグスチョートとブリミルスキャルという2名のヤールをノルウェイに派遣した。それはノルウェイをキリスト教化するためであった。これはハラルド青歯王影響下のヴィクでも行われた。布教がノルウェイで行われている一方、北方では昔ながらの異教の儀式が行われている。
 オーラヴ王がノルウェイ王になってからヴィクに向かった。そこで彼は義父のロジン、義兄弟ソルゲイルとヒルニングを呼び寄せた。彼は彼らにノルウェイを布教する上で力添えをして欲しいと頼んだ。そしてかれらの協力を得て、ついにオーラヴ王はノルウェイ全土をキリスト教化するために本格的に動き出した。それは強く押し進められ、逆らう者は罰した。ある者は殺害され、ある者は不具にされ、ある者は国外追放にされた。早春にオーラヴ王はヴィクを出てアグジルに向かった。誰も王に逆らわず洗礼した。ホルザランドではホルザ・カーラの血筋の有力者達がたくさんいた。ここで一番の有力者の一族であるホルザの息子はソルレイヴ、アグムンド、ソルズ、アルモドである。彼らは布教のためにオーラヴ王がくると知って話し合いを行った。そしてついにダラシングに武装して向かうと合意されたのである。
 オーラヴ王はロガランドにつくとシングを行った。そこには武装した農夫達がいた。彼らは逆らおうとしたがついに洗礼に同意した。それと違うシングで農夫達と話し合いが持たれ、両者が同盟を結ぶ上で条件がだされた。農夫達はオーラヴ王の姉のアーストリズを有望な若者エルリング・スキャルグソンに嫁がせることを要求した。オーラヴ王は姉のもとへ向かい、この話をした。
「じょーだんじゃないわよ。なんで私が王の称号のない男と結婚しなきゃいけないのよぅ。そんな男と結婚する気ないわ。もうしばらく独身を通して白馬の王子様を待つわ。」とわけのわからんことを言った。
 するとオーラヴ王は姉が飼っていた鷹を捕まえて全ての羽をむしり取り、丸裸の鷹を姉に送りつけた。これにはさすがのアーストリズもびびり、弟のご機嫌を取りにオーラヴ王を訊ねた。こうして縁談が取りまとめられた。婚礼は夏に行われ、オーラヴ王はエルリングにヤールの領土を渡そうと申し出た。こうして彼は広大な領土を手に入れた。
 秋にオーラヴ王は布教の旅にでた。王はラーザで神殿を破壊し、そこにあった祭具を奪い取った。神殿の扉にはヤールのハーコンが作った大きな金環があった。をれも持ち去った。神殿は焼き払い、そこからハロガランドに布教に向かった。そこではティョッタのハーレク、ヴァガルの「赤鹿の」ソーリ、「毛むくじゃら顎の」エイヴィンドが首領になり兵を集めていた。オーラヴ王はこの情報を知るとそこには入らず、引き戻ったのであった。
 「強い意志」とあだ名されたスウェーデンのシグリーズ妃は自らの地所に住んでいた。その冬、オーラヴ王と妃の間を家来達が彼らの結婚の段取りをするために行き来した。彼女は申し出を受け、その時、オーラヴ王がラーザの神殿から持ち去った金の環が彼女に送られた。家来達をこの金環をやんややんやと褒め称えたが、そこにいた鍛冶屋2兄弟は首を傾げていた。女王がそれはなぜかと訊ねると、彼らはこれは紛い物であると答えた。そして環を壊したところ、真鍮に鍍金されたものであった。彼女は激怒し、家来達は裏切りはこれだけでなく今後も続くであろうと言った。
 オーラヴ王はリンゲリークに雪、そこでも布教をした。「グレンランド人の」ハラルド王の死で未亡人となったアースタはリンゲリーク王の「雌豚の」シグルズに嫁いだ。この時に前夫との間に生まれた聖オーラヴが生まれた。オーラヴ王はそこへ布教に訪れ、シグルズ、アースタ、オーラヴを洗礼し、聖オーラヴの名付け親になった。その時、聖オーラヴは3冬歳であった。一体全体聖オーラヴは3年間、どんな名前で呼ばれていたのだろうか謎である。
 早春にオーラヴ王はシグリーズ妃に会いにコヌンガヘッラに向かった。そして彼は彼女に洗礼するように言った。すると彼女はそれに逆らった。オーラヴ王は彼女を持っていた手袋で頬を殴りつけ、彼女を罵った。
「誰がこんな異教徒のババァと結婚するか。」
「お、覚えてらっしゃい。この事は災いとなってお前の首を取ることになるぞえ。」
こうして2人は立ち上がって別れた。
 オーラヴ王はツーンスベルグのシングで魔法使い、妖術師の追放を公言した。オーラヴ王は近隣の彼らを全て殺害しようとしたが、「泉の」エイヴィンドという者がその騒ぎから命からがら逃げ仰せた。王は彼の首を取れなかったことを悔しがったのであった。しかしこれ以後も彼らへの迫害は続き、結局、彼ら全てを殺害した。
 こんなエピソードがある。オーラヴ王がアグヴァルスネスの宴に興じていた時、1人の老人がやってきた。老人は幅広帽を被り、隻眼であったということである。彼の知識は見事なもので、オーラヴ王は彼に様々な事を問いかけた。王は老人と長らく語り合った。夜もどっぷりと更けたので王は就寝したが、すぐに起きあがって老人を連れてくるように召使いに命じた。しかし老人はどこにもいなかった。次の日の朝、王は料理人に知らない者がきたかどうかを訊ねた。
「へぇ、1人の老人がきやした。わしらの料理を下手っぴといいやした。そして分厚い肉を2切れわしらにくれやした。わしらはそれを鍋に彫り込んで調理しやした。」
それを聞くと王はすぐに料理を止めるようにいった。
「すぐに全て捨てろ。やつはオーディンだ。オーディンの計略にひっかかることがなかったのはキリストのおかげた。」と王が言った。
このエピソードが布教の際にいいたとえ話でいい布教の道具になったかどうかは定かでない。
 オーラヴ王は夏に軍隊を集めてトロンヘイムに向かい、フロスタ8州のシングの開催を命じた。しかし農夫達はそれに武力をもって答えた。あまりに農夫達が熱くなっていることと農夫軍の数が多いことにオーラヴ王は逆らえず、こんな提案をした。
「お前達と私の仲じゃないか。そうだお前達の供犠祭を訪れよう。そして参拝しよう。」と王が言った。
これには悪巧みがあるとも気付かず、農夫軍は大人しく合意した。そしてメーラの供犠祭に出かけた。そして朝に王は供犠祭に集まった農夫を集めて演説した。
「さぁ供犠祭に必要な生け贄を捧げよう。盛大に行う。オーディンは有力者の血を好む。だから生け贄は、お前とお前とお前ととお前とお前とお前だ。オーディンもさぞやお喜びであろう。」と王が言った。
生け贄に選ばれたのはメザルフスのオルム、ギムサルのスティルカール、グリーティングのカール、ヴァルネスのソルベルグソン、リョクサのオルム、スケルジングステズのハルドールが指名された。そしてその他に身分の高い5名も指名した。
「さあ豊作と平和を願って生け贄を捧げるのだ。」
こうしてその地のオーラヴ王に反対する有力者達が打ち倒された。こうしてこの地も洗礼が施されたのであった。
 オーラヴ王はトロンヘイムのキリスト教に激しく逆らう者達とのシングに向かった。そこにはシングで最初に演説する「鉄の」スケッギが立ち上がって演説した。以前のように供犠を行うことを要求した。すると農夫達は彼に拍手喝采した。
「ではお前達の神殿とお前達の信仰を見せてもらおう。」とオーラヴ王が言った。
オーラヴ王は数名の家来と共に神殿に入った。最も崇められている金銀で装飾されたトールの座像があるのを見た。オーラヴ王は黄金で施された斧を振り上げてトールを打ちつけた。トールは台座から転げ落ち、オーラヴ王の家来達はそれを合図として次々と他の神を台座からたたき落とした。そして「鉄の」スケッギが殺害された。こうしてその地の者達は逆らうことができず、キリスト教を受け入れたのであった。
 オーラヴ王は「鉄の」スケッギの親族達と補償のために会合を行った。親族達は「鉄の」スケッギの娘のグズルーンを妻とするように要求した。初夜の晩に彼女は寝首を取ろうとしたが、失敗し、彼女はオーラヴ王のもとから去った。
 そしてしばらくしてハロガランド出身のシグルズとハウクという者が交易の旅に出た。彼らはイングランドからノルウェイに戻ってきた。オーラヴ王の家来達が彼らをみつけて捕らえて王に突き出した。王は異教徒の彼らに洗礼するように命じたが、彼らは逆らったので拷問を受けた。そして彼らはいつしかそこから消え失せ、ティョッタのハーレクを訊ねた。彼は彼らを歓迎して迎えた。
 春のある晴れた日、ハーレクが自分の農場で過ごしていた。彼には家来がほとんどおらず、年老いていた。シグルズは彼に小舟遊びを提案した。ハーレクは無邪気に大喜びして小舟に乗り込んだ。シグルズと兄弟は船に食糧と飲み物を運び込んだ。しばらくしてシグルズがハーレクに言った。
「まず次ぎから1つを選んでもらおう。我ら兄弟に従う、手足を縛られ拘束される、殺害される、のどれかを。」
ハーレクは武装した彼らに逆らうとこは叶わないと理解し、彼らに従った。彼らはトロンヘイムに行き、オーラヴ王に謁見した。そこでもオーラヴ王は彼に洗礼するように言ったが、ハーレクは逆らった。すると王はこれ以上話し合っても無駄であると理解して国に返した。
 ティョッタのハレクは屋敷に戻るとすぐに「毛むくじゃら顎」のエイヴィンドにオーラヴ王との出来事、王が武力でもってここを征するであろうとの用件を伝えた。エイヴィンドはそれを聞いて早速ハーレクを訪れた。そしてハーレクの後を追ってきたオーラヴ王の家来達はエイヴィンドを捕らえた。エイヴィンドはオーラヴ王のもとに差し出されたキリスト教を迫られた。あくまでも逆らうエイヴィンドは腹の上に赤くなった炭でいっぱいの器が置かれてそれで処刑された。エイヴィンドはフィン人の妖術使いが子宝に恵まれなかった夫婦のために死体に魂を入れる妖術でこの世に生み出したもので、一番の呪術師であったと言われていた。
 前の秋にオーラヴ王は船を建造した。それは30漕手席あり、船尾と船首が高くその様から「鶴」と名付けられた。そしてこの春にそれでハロガランドに向かった。そこでシングを行って洗礼し、ついにティヨッタのハレクも洗礼した。
 「赤鹿の」ソーリの友人で、サルプティ・フィヨルドのゴゼィには「強い」ラウズが住んでいた。とても金持ちでたくさんの家来を抱えていた。彼は権力者で、必要としたフィン人の人手はいつでもたくさん集めることができた。彼は熱心な供犠者で呪術者であった。彼らはオーラヴ王がハロガランドに向かっていることを知ると兵と船を集めた。ラウズは黄金が施された大きな竜船を所有していた。「赤鹿の」ソーリも大きな船を所有していた。彼らは王を迎撃し、激しい戦になった。彼らの部が悪くなると、「赤鹿の」ソーリは帆を揚げて海に向かった。彼は魔法でいつも風を受けることができた。オーラヴ王は彼を追い、陸にまで追いつめた。上陸して走って逃げるソーリをオーラヴ王はヴィーギを連れて追跡した。
「ヴィーギ。赤鹿を捕らえろ。」とオーラヴ王は犬に命令した。
犬はソーリに飛びかかり、足止めをした。王は槍を投げた。ソーリは剣で犬に大きな傷を追わせたが、王の槍が体を突き抜けた。こうしてソーリは絶命した。深い傷を負ったヴィーギは船に運ばれた。こうして戦は終わった。
 オーラヴ王は上陸したところはどこででも民を洗礼して、キリスト教を押し進めた。王はラウズを見つけだそうとしたが、嵐に見舞われて足止めせざるを得なかった。いつまで経っても嵐がおさまらず、王はシグルズ司教に相談した。司教はミサの祭具を手にすると福音、祈りを捧げた。すると風がおさまったのである。こうして彼らはゴゼィに到着し、ラウズを捕らえた。王は友好と洗礼を強要したが、ラウズは逆らい、後ろでに縛られた。ラウズの口に木片が差し込まれた。蛇を口の中に入れようとしたが、ラウズは息で追い出した。次ぎにアンゼリカの幹を口につっこんだ。そして蛇を置き、その後に熱した鉄を置いた。すると蛇はするするとラウズの口の中に入り、彼の脇腹を貫いた。こうしてラウズは絶命した。そして王軍はラウズの財産と「鶴」より大きくて立派な「龍」を分捕った。帆が上げられた時、龍の翼のように見えたからその名がその船にはついていた。彼はこの地の従った者達を洗礼した後にトロンヘイムに戻った。
 その秋にアイスランド・サガで有名な面々がニダロスにアイスランドからやってきた。キャルタン、ハルドル、コルベイン、スヴェルティングである。彼らは皆異教徒であった。そしてタングブランドに洗礼を受けた白のギッスルもいた。オーラヴ王は親族のギッスルとヒャルティを招待し、彼らは王の歓待を受けた。一方で、異教徒のアイスランド人はオーラヴ王の常々の噂から身に危険を感じて海に出たが、風に流され、ニダルホルムの下方に引き戻された。オーラヴ王は町からアイスランド人が逃げたと聞いて家来を送り出した。
 ミカエル際の当日、アイスランド人達はミサを見に行った。その厳粛なる雰囲気に圧倒されたアイスランド人達はそれぞれに思いを抱いた。キャルタンは賞賛したが、他の者達はそれを罵った。そしてその噂を聞いた王はキャルタンを呼び出し、キャルタンは同意のもと親族のボッリと家来達と共に洗礼した。
 同じ秋にタングブランド牧師はアイスランドからオーラヴ王のもとに戻った。アイスランドで布教がうまくいかなかったことを報告した。そして夏にグリーンランドを最初に植民した赤毛のエイリークはグリーンランドからノルウェイに来て、オーラヴ王に謁見した後に洗礼し、その冬を王のもとで過ごした。
 この冬にオーラヴ王はハロガランドで大きな船を建造さた。この船は巨船で「龍」に基づいて作られていたため「長龍」と名付けられ、前者の「龍」はこれから「短龍」と呼ばれるようになった。
 ハーコンの息子のヤールのエイリークと彼の兄弟と多くの親族達はスウェーデン王の庇護の下、借地を与えられ不自由なく暮らしていた。オーラヴ王に追われたそれ以外の者達はヤールのエイリークを探していた。ヤールのエイリークはスウェーデンにいる間、バルト海で暴れまくり、ついにはガルダリーキでまで大暴れした。こうしてめきめきと力を付けたエイリークはある冬にデンマークに向かった。彼はデンマーク・スヴェイン二叉髭王の娘のギューザに求婚して、その婚礼が取り決められた。スヴェイン二叉髭王はヴェンド王ブリスラヴの娘のグンヒルドを妻としていた。しかしグンヒルド妃が亡くなり、スヴェイン王はスウェーデンの「強い意志の」シグリーズを妻とした。こうして反オーラヴ側の親族はにょきにょきと大きく育っていったのであった。
 ブリスラヴ王とスヴェイン王の姉妹のチューリとの婚礼の段取りをさせられたヤールのシグヴァルディはそれを取りまとめることができずブリスラヴ王に不平を言われた。キリスト教徒であったチューリは異教徒のブリスラヴ王のもとに嫁ぐことを嫌ったからである。ヤールは王にたくさん文句を言われた後、デンマークに再度婚礼の段取りをするために出た。世渡り上手の罰当たりのヤールのシグヴァルディの舌に遂にスヴェイン王は落とされたのであった。チューリは数名の侍女と家来、アッスルという養父がその旅に出ることになった。チューリはこの事を非常に嘆いた。彼女はヴェンドランドに着くと直ぐにオヤジのブリスラヴ王と婚礼を行った。しかし彼女は異教徒から食事を受けず、1週間食事を取らなかった。そしてある晩、彼女と養父は闇にまぎれて逃げ去り、デンマークに戻った。しかし彼女はスヴェイン王に見つかるとすぐにヴェンドランドに送り返されることが判っていたので、彼女達はノルウェイに向かうことにした。そしてオーラヴ王を訊ね、彼女は歓迎された。彼女は品があり、美しかったので、オーラヴ王は求婚した。彼らの婚礼は秋に行われた。しかし女運のないオーラヴ王のこと、春にはすっかり倦怠期を迎えていたのであった。
「私はヴェンドランドでは広大な領地を結納品として頂いたわ。でもここでは何も受けていないわ。妃に相応しい物は何も手に入れていないわ。」と彼女はオーラヴ王に不満をぶちまけた。
 ある日、オーラヴ王が町中をぶらついていた。その時期にしては信じられないほど大きなアンゼリカの棒の束を抱えた男を王は見た。オーラヴ王は大きな棒を手にとってチューリ妃の女館に行った。
「ほら、お前にプレゼントだ。」
「私はたくさんの財産をハラルド青歯王から譲り受けました。そしてハラルド王は力があったのでノルウェイを征服してたくさんの物を手にしました。でもあなたはスヴェイン王に恐れをなしてデンマークに行くことなんてできないでしょうね。」と彼女は言った。
「お前の兄弟のスヴェイン王なんざ恐れるに足らぬわ。もし我らが向き合った時、やつは道を譲るだろう。」とオーラヴ王は怒鳴りつけた。
 少ししてオーラヴ王はシングを開催した。そして徴兵が行われ、その夏に選り抜きの戦士で先鋭部隊を結成した。その部隊とは以下のようなものである。オーラヴ王の軍旗持ちは「赤の」ウールヴで、「龍」の舳先にいた。王の元帥はコルビョルン、「雄牛足の」ソルステイン、ヴィカルである。船首楼はヴァク、ベルシ、ウチュルミル、ソラーンド、アグムンド、ロドヴェル、ハーレク、ケティル、ソルフィン、ホワルドと彼の兄弟である。前部船倉にはビョルン、ソルグリーム、アースビョルン、オルム、ソルド、ソルステイン、アルノル、オーラヴ、アルンフィン、シグルズ、エイナルとフィン人達、ケティル、グリョートガルズである。マストそばの中央船倉は18歳の若さで選ばれた「太鼓腹振りの」エイナル、ハルステイン、ソーロールヴ、イヴォル、オルムである。それ以外の先鋭もいた。「短龍」には王の兄弟のソルケル・ネヴィヤで、ソルケル・ティルジルと王のおじのヨーステインは「鶴」に乗った。
 オーラヴ王はこれらの時にアイスランドとグリーンランドを洗礼するために努力し、この夏にアイスランドは全島会議でキリスト教が認められた。この頃に「幸運の」レイヴがヴィンランド(アメリカ)を発見したのである。
 そして着々とスウェーデンとデンマークの間で同盟が結ばれオーラヴ王の首を取る段取りが取られていたのである。そしてスヴェイン王がオーラヴ王との会戦を望んでいるとの噂が流れた。ヴェンドランドでヤールのシグヴァルディは親族関係のあるオーラヴ王と会い、このことについて話し合っていた。彼はヨムスヴァイキングの兵を預けると約束した。王はその申し出を受けて膿に出た。ヤールのシグヴァルディがスヴォルドを航行していた時、1隻の船が漕いで近づいてきた。彼らはデンマーク軍がこの付近に停泊していると報告を受けた。そして彼らは帆をたたんで島に漕いで行った。この時、オーラヴ王とヤールのシグヴァルディには71隻の船があったと言われている。
 デンマーク王スヴェイン、スウェーデン王オーラヴ、ヤールのエイリークは艦隊と共にいた。空は澄み渡っていた。彼らは海にたくさんの船を見た。
「見事な船だ。あれは「長龍」に違いあるまい。」
「あれは「長龍」ではございません。」とヤールのエイリークが答えた。
それはその通りでエインドリジィの船であった。少ししてもっと大きな船がやって来た。
「あれぞまさにトリュッグィの息子のオーラヴの船に違いあるまい。やつめ「竜頭」をはずしてやがる。」とスヴェイン王が言った。
「あれも違います。縞模様の帆、あれはエルリングの船です。やつの船はそのままにしておきましょう。あの船はオーラヴ王から放しておくに限ります。」とヤールのエイリークが言った。
少しして向きを変えたヤールのシグヴァルディの船を見つけた。
「あれがオーラヴの船だ。突撃だ。」とスヴェイン王が言った。
「しばしお待ちを。「長龍」以外にも大きな船はたくさんあるんです。」とエイリークが言った。
「やれやれヤールのエイリークはへっぴり腰になっておる。あれじゃ父の仇は取れはしまいだろうにな。」と多くの者達が揶揄した。
しかししばらくすると4隻の船が見えた。その内の一つは煌めく黄金の竜頭を持つ船であった。
「あれぞ、間違いなく「長龍」だ。」
その後、多くの者達がその船を賞賛した。そして4隻の船が彼らの前を横切った。一番目が「鶴」で、中に「長龍」が行き、最期に「短龍」が航行していた。
 ヤールのエイリークはヴィキング行きで手に入れた「髭」というバルジィ船に乗っていた。これは船首と船尾が髭のようなものが垂れ下がっていたからである。デンマーク王、スウェーデン王、ヤールのエイリーク間ではオーラヴ王の首を取った後はノルウェイを3等分することが取り決められたのである。
 ヤールのシグヴァルディは向きを変えて中州の方に行った。「鶴」に乗るソルケルがヤールになぜ方向を変えたか怒鳴って訊ねた。
「オーラヴ王を待っているのだ。なーにすぐにやっかいな事になるだろうよ。」とヤールは答えた。
そしてオーラヴ王が中州に向かってきている時、敵が入江に漕ぎ入った。オーラヴ王の艦隊に動揺が走った。
「落ちつけ。帆を下げろ。戦をする気はない。そして我が軍は敵に背を向けたことなどない。」とオーラヴ王が叫んだ。
オーラヴ王は艦隊を整列させた。自身の船を中央に置き、片側に「短龍」、もう片側に「鶴」を置いた。そして両龍を綱で固定した。
「我が船を前に置け。そして決して他の船より下げるな。」とオーラヴ王が言った。
「閣下、「長龍」は巨船ゆえ前におくと弓状陣形が崩れます。」と赤のウールヴが言った。
「我が船には勇敢な戦士が乗り込んでいる。下げることはせぬ。」と王が言った。
「では閣下、私めが船首を守っている間は決して後ろ甲板で背を向けないで下さい。」とウールヴが言った。
王は弓を握り、矢を引いてそれをウールヴに向けた。
「閣下、それは敵に向けるものです。私は閣下のためを思って言っているのですぞ。」とウールヴが叫んだ。
オーラヴ王は「長龍」の後ろ甲板で高い場所に経っていた。黄金に飾られた盾と黄金の兜を着けていた。彼はチェーンメールの上に短い赤のキルトを着ていた。それゆえに彼は簡単に識別ができた。
「あの軍旗は誰のものだ。」とオーラヴ王が訊ねた。
「スヴェイン王のものです。」
「スヴェインなぞ恐れるに足らぬ。デンマークには勇者がおらぬ。では右手の軍旗は誰の物だ。」と王が訊ねた。
「スウェーデン王オーラヴのものです。」
「ふん、やつらは「龍」を攻撃するより、屋敷で血の器をなめているオーディンに祈っているのがやつらに相応しい。恐れるに足らぬわ。では左手は誰だ。」
「あれはハーコンの息子のエイリークです。」
「やつには私に向かう十分な理由がある。そしてやつの軍隊は強いだろう。なんせやつはノルウェイ人だからな。ノルウェイ人は勇敢で強いからな。」とオーラヴ王が言った。
自国民を賞賛する愛国心高らかのオーラヴ王であった。
 それから両軍は互いに向かって漕ぎだした。スヴェイン王が「長龍」に突撃した。オーラヴ王はスウェーデン軍から離れた。戦は激しくなった。風見鶏の調子のいいヤールのシグヴァルディは戦に参加せずに後方にいた。
 戦はいよいよ激しいものとなった。「長龍」「短龍」「鶴」の兵はスヴェイン王の船にフックを投げた。そしてスヴェイン王の船が落ちるとみるやいなや、スヴェイン王はそそくさと違う船に乗り移った。そしてスウェーデン軍がやって来た。しかし巨船「長龍」に苦しみついに彼らは退いた。そしてヤールのエイリークが「髭」をオーラヴ王の船団の端から攻撃して撃破していった。そしてオーラヴ王の船へとどんどんと包囲網が縮められていった。それから多くの兵が倒れる中、オーラヴ王の「長龍」以外全て撃破された。そしてヤールのエイリークは「髭」を「長龍」に並ばせ、激しく戦った。矢、投槍と投げれる武器は雨あられと降り注がれた。「長龍」では盾でかろうじて身を守れるほど激しかった。オーラヴ王の戦士は船の柵の近くで激しく戦った。
 「太鼓腹振りの」エイナルは中央船倉の船尾側にいた。彼は弓で攻撃していた。他の弓手より激しく攻撃していた。彼はヤールのエイリークを狙っていた。ヤールの頭をかすめて矢が飛んだ。ヤールは打った者が誰か家来に尋ねた。そしてすぐに2本目の矢が脇と腕の間をすり抜けて船の壁に深々と突き刺さった。そしてヤールはフィン人だからフィンと呼ばれていた家来に弓を持つように言った。彼は名射手であった。
「あの男を打て。」とヤールが言った。
フィンはエイナルの弓の中央に矢を当て、そしてエイナルの矢は音を立てて真っ二つに割れた。
「何の音だ。」とオーラヴ王が叫んだ。
「閣下、閣下の手からノルウェイが落ちる音です。」とエイナルが言った。
「馬鹿者。そんな大きな破裂が起こったのではないわ。私の弓を取れ。それで打て。」と王は叫んで、彼に弓を投げた。
そしてエイナルが王の弓を手に取り引くと、なんと矢尻が弦を越えてしまったのである。
「なんじゃこりゃ。弱すぎるぞ王の弓は。」と彼は叫んで弓を投げつけると、盾を剣を手にとった。
オーラヴ王は後ろ甲板で弓と槍を用いて戦っていた。そして船首でのらりくらりと戦う家来を目にした。
「なんだその戦い方は。もっと激しく戦え。」と王が叫んだ。
「閣下、しかし刃こぼれしてまともに戦えませぬ。」と家来が言った。
そして王は箱の中から新しい武器を取り出すと家来に与えた。その時、右手を伸ばしたオーラヴのチェーンメールから流れる血を家来は目にした。誰も王が傷つくところは見ていなかったのである。
 ついにエイリークと14名の者達が「長龍」に乗り込んだ。するとオーラヴ王の義兄弟のヒルニングが躍りでて激しく攻撃した。するとヤールはそれにひるみ自身の船に戻ってしまった。しかしオーラヴ王の兵に疲れが出だしたので、エイリークは再び乗船した。そしてオーラヴ王の残された兵は船尾にとじりじりと追いつめられた。
 この時、オーラヴ王の影武者のコルビョルンとオーラヴ王がそれぞれ違う方向に船から海に飛び込んだ。オーラヴ王は盾を上に向けて体を覆って海中に消えた。一方、コルビョルンは体の下に盾を向けてしまい、海中にうまく沈むことができずヤールの家来に捕虜として捕らえられた。彼らは影武者のコルビョルンをオーラヴ王と思いこんでヤールに突き出した。しかしヤールは影武者のコルビョルンであると認識し、彼に助命を許した。
 こうやって激しい戦が行われているさなか、ヤールのシグヴァルディは戦を遠巻きに眺めているだけであった。そこにはヤールの船10隻と彼の妻のアーストリーズの乗り込むもう1隻が浮かんでいた。オーラヴ王が海中に没した時、勝利の雄叫びが起こった。そしてヤールのシグヴァルディは櫂を海中に入れさせ、漕いでその場を立ち去った。しかしアーストリーズはヴェンドランドに戻った。オーラヴ王は泳ぎの名人であったので、そこからアーストリーズの船まで泳いでいって、助かったとの噂が流れた。しかしそんな噂がまことしやかに流れても決してそれ以後、オーラヴ王の姿は見られることはなかった。
 ヤールのエイリークは「長龍」とそれ以外の戦利品を手に入れた。ヤールのハーコンのスヴェインはスウェーデン王オーラヴの娘のホールムフリーズと結婚した。そしてデンマーク王スヴェイン、スウェーデン王オーラヴ、ヤールのエイリークは3者で取り決めたようにノルウェイを3分割した。ハーコンの息子のスヴェインはスウェーデン王オーラヴからヤール領を受けた。ヤールのエイリークとスヴェインの両者は洗礼し、全ノルウェイ人達にキリスト教を守るように命じた。しかし民衆は古い信仰を未だ続けていたのであった。ヤール達は民のよき友で、よき支配者であった。