Æska Þiðreks konungs

14章・Lýsing Þiðreks af Bern.

セートマル王がこの時、ベルンを統治していた。彼は高貴で、頭もよく、立派で、寛容で皆から信望を集めていた。妻のオディリア(Odilia)は頭もよく、人望を集め、教養高かった。彼らの一人息子はシズレク(Þiðrekr)と言った。彼が大きくなった時、彼は巨人と見まがうほどの抜きん出た立派な体格になった。彼は面長で、容姿は普通で、暗褐色の優れた視力を持っていた。髪は明るく、巻き毛をたらしていた。彼は年老いても髭が生えなかった。彼の肩幅は広く、2エルの幅であった。その腕は幹のようにがっしりとして、石のように硬かった。尋常なまでにお尻と太もももがっちりとしていた。脚は色白で、引き締まっていた。そしてふくらはぎと足首もがっちりとして、巨人のものと見まがうものであった。彼の力は想像出来ないほど強くかったのだが、それを試したことはほとんどなかったのであった。彼は陽気な性格で、控えめで、寛容で、気前がよかった。サムソンにそっくりだと皆は口々にいっていたのであった。サムソン王を知らないものたちはシズレクのような者は今まで見たことがないと賞賛するばかりであった。
セートマルはシズレクが12歳の時に騎士に叙した。息子を家来と騎士を統括する家臣達(hirðar)の長にし、彼はより権威ある者になったのであった。

15章・Hildibrandr gerðist maðr Þéttmars konungs.

フェニディ(ヴェニス)(Fenidi)という町を統治する公がいた。彼は大首領で、偉業をなした者であった。彼の息子はボルトラム(Boltram)と、後にフェニディとスヴァヴァの公になるレジンバルド(Reginbaldr)であった。レジンバルドにはヒルディブランド(Hildibrandr)という息子がいた。彼が12歳の時に、彼は武器を取り、玉座に座る王の御前に行き、騎士に叙され、たくさんの騎士の長になった。ボルトラム公にはレジンバルド(Reginbaldr)という息子がいた。レジンバルドの息子はシントラム(Sintram)である。
ヒルディブランドは男前で、顔が大きく、頭が切れ、鼻筋が通っていた。髪と髭は絹のごとく金色をしており、平らに剃ったかのように巻き毛であった。彼は領主の中の領主であった。背が高く、賢く、大有力者の一人で、勇気があり、仁義に厚い人で、気前がよかった。全領土において、彼に匹敵する者はおらず、すべてにおいて抜きん出ていた。
ヒルディブランドが30歳の時に、彼は父にこのままフェニディにいても名声を上げることがないゆえに、スヴァヴァに向かい、名声を上げたいと申しでた。高貴な者達が遠征にでて名声を上げるのは当時の習慣であった。
公はどこに行くのかとたずねた。ヒルディブランドはベルンのセートマル王のもとへ行くといった。
彼は15名の騎士を引き連れて出発した。そしてベルンのセートマル王に謁見した。彼らは歓迎され、滞在が許された。王は彼を最も近い位置に席を置かせた。そして彼は長らくここで過ごしたのである。
セートマル王の息子のシズレクは5歳であった。ヒルディブランドはシズレクが12歳になるまで彼の隣に座らせ、彼の養父となったのであった。

16章・Álfreks færði Þiðreki sverðit Naglfring.

ベルンからシズレクとヒルディブランドが馬で出かけた。彼らは武装し、鷹と猟犬を連れて森に入った。彼らは鷹を飛ばして、犬達を放していた。
シズレクが牡鹿を追いかけている時、一人のドワーフを目にした。彼はドワーフを追いかけて帽子に手が届き、首に手を回し、鞍にぐいと引っ張りあげた。ドワーフはアールフレク(Álfrekr)という者で、彼は最も手先が器用なドワーフで、彼に助命を懇願した。
「命ばかりはお助けください。その代わりといっちゃなんですが、金銀財宝の情報をお教えしましょう。あんたの父上でさえこの半分も手にしたことがないというような量でございます。ある2人がこれを所有しており、一人は女でヒルド(Hildr)といい、もう一人は彼女の夫でグリーム(Grímr)といいやす。彼は抜きん出て強く、12人力ですたい。彼の妻もそれぐらい強いです。両人とも鬼神のごとくな者達で、夫はナグルフリング(Naglfringr)という剣を持っています。その剣は最高のもので、私めが鍛えたもんです。この剣を手にしないなんて話はないですよ。こんなちっぽけな私を殺害するよりその剣で名声を手に入れる方があんたのためだと思いますがね。」とドワーフは言った。
シズレクはそのナグルフリングという剣を今日、もってこいと言った。こうしてドワーフが開放された。シズレクは3時まで猟を楽しんだ。
3時を回ると、シズレクとヒルディブランドが山腹に立っている所にアールフレクがナグルフリングを持ってやってきた。そしてドワーフは話したお宝の場所はごつごつしたごつごつした岩山の土くれの館と言い、お宝を存分に取るがいいと言った。そして二度と自分には手を出さないように忠告した。次の瞬間にはドワーフは消えうせていた。
それからシズレクとヒルディブランドが馬を降りた。シズレクはドワーフの剣を引き抜き、これほどまでの名剣は今まで見たことがないと言ったのであった。

17章・Þiðrekr ok Hildibrandr drepa Grím ok Hildi.

彼らはごつごつした岩山に向かい、土くれの館を見つけた。彼らは馬をしっかりとくくりつけ、武装し、盾を身の前にして進んだ。シズレクは勇敢に住処へ入り、ヒルディブランドがそのあとを追った。
強いベルセルクのグリームが彼らを見つけると、彼は長椅子から武器を取り出そうとしたが、そこにナグルフリングの姿がなかった。彼は大盗賊のドワーフのアールフレクが盗んだとすぐに理解し、囲炉裏から火のついた棒を手にとり、戦いに行った。ヒルディブランドはヒルドによって首を捕らえられ、身動きが取れなかった。長らくヒルディブランドとヒルドは取っ組み合いをして、彼は倒され、ヒルドは彼の頭に体重をかけ、動けなくしようとした。彼女は彼の腕をつかんだので、それぞれの爪から血しぶきがあがった。彼女はこぶしで彼の胸をどんどん殴り、彼はすぐに意識がうせつつあった。
彼は育て子のシズレクに助けを乞い、シズレクは無駄に死なせはしないと助けることを約束した。
そしてシズレクは一撃でグリームの首をはね、すぐに養父を助けに向かった。彼はヒルドを真っ二つにしたのだが、彼女は妖術が使え、ばらばらになった2つがとびかかってきた。シズレクはその奇妙な出来事に驚きながらも、ヒルドの胸部を攻撃した。
そしてヒルディブランドが叫んだ。
「2つの部分の間に立て。やつをしとめることができる。」
それからシズレクが助言のとおりにして、3度目の攻撃をすると脚の部分が動かなくなった。しかし頭の部分はまだ動き、グリームだったら2人とも仕留められたはずなのにと語りかけた。こうして頭の部分も動かなくなった。
彼らは金銀財宝を手に取り、見たこともないような兜を見つけた。そしていつの間にかアールフレクがそこにいたのであった。アールフレクはこの兜について話した。ヒルドとグリームの両者がこの宝が非常に貴重なものであると考えていたのでこの兜に彼らの名前を付けたいと考えていたとドワーフは言った。こうしてこの兜の名前がそれゆえにヒルディグリームであると付け加えた。シズレクはこの兜を重要な戦で身に付けることになるのである。
シズレクとヒルディブランドはもてるだけの財宝を馬に乗せ、乗り切らなかった分は後に残して隠したのであった。この件以降、彼らは名声を上げたのであった。

18章・Frá Heimi Studassyni.

スヴァヴァの山の北部にはセガルズ(Sægarðr)という町があった。そこは北と南の両方の土地で一番の美女で、権力があり、自信に満ち溢れたブリュンヒルド(Brynhildr)という女性が支配していた。彼女は非常に頭がよく、偉業をなし、忘れれられないようなことを行った者であった。
森からそう遠くないところにブリュンヒルドのものである大きな農場があり、ステュダス(Studas)という一人の男が切り盛りをしていた。彼は頭がよく、武道に優れていた。この森の中にはたくさんの名馬がおり、その農場は類をみないような名馬がいる種馬農場であった。馬は灰色、白、黒のどれかの単色の馬で、大きくて、見た目もよく、鳥のように駆けることができ、よく調教され、とても手入れがされているものばかりであった。ステュダスは最高の騎手であり、最高の調教師であった。
ステュダスは年を重ねているが、彼は父の名を取ってスチュダス(Studas)と名づけた一人の息子がいた。彼は12歳で、見た目は父に似ていた。彼は顔が長くはないが大きく、鼻はぼてっとしていないが短く、額は広く、広く開いた黒い目をしていた。非常に濃い髭で、短くて太い首の上にどっかりと大きな頭があった。彼の肩幅は広かった。腕は1エルもあろうかという程の太さであった。腕は短くて極端に太かった。彼は手の肉厚は厚く、背が低いが程よくほっそりとしていた。彼の肩は四角くて、足は太かった。彼の肢は短いが、最強の男であった。彼は乗馬をしたり、トーナメントに出たり、フェンシングをしたり、クロスボーや槍に興じたりしていた。彼は強面で、強い意志をもち、自尊心が高く、誰にも仕えていなかった。彼にはたくさんの友はいなかった。彼はケチで、友達が少なく、そのために本当の名前を失って、ヘイミル(Heimir)と呼ばれた。その理由というのは、ヘイミルというのはある龍の名前で、それは最強の龍(オルム)(ormr)で危なっかしく、同属の龍にその巣にちかずくのが恐れられていたというものからである。こうしてステュダスはこの龍と比較されて、ヴェーリングが彼のことをヘイミルと呼ぶようになったのである。彼は最高の種馬から、灰色の最高で最大の馬を手に入れることになる。老ステュダス(gamli Studas)が仕込んだ。馬の名前はリスパ(Rispa)といった。

19章・Heimir býðr Þiðreki til einvígis.

ある日のこと、ヘイミルが名剣のブローズガング(Blóðgang)を手にして、馬を用意した。そしてヘイミルは父に許しを貰って旅に行くことになった。彼はこの森で年老いていくのは勇者には相応しくないと訴えたのである。父は彼にどこに行くのかと尋ねると、彼はベルンとい町へと山を越えて南に行くといったのであった。そしてそこでシズレクという王の子供と強さ比べをするつもりであると言った。
「ある賢者がシズレクについて私に話したことがある。お前は彼と匹敵しているとうぬぼれておる。もしただ自らの力を確かめたいのであれば、よそへ行った方がよい。自らの器を知るというのはよいことだからな。熱望と自己欺瞞は大いなる屈辱をもたらすのは常だ。」と父が助言した。
「俺がさっさと殺されるか、シズレクを超えるかってことだ。俺は17歳でやつは満12歳にもなっていない。やつと決闘するのがうぬぼれだというのか。」と彼は言い返した。
彼はぷんぷんと怒りながら馬のリスパに乗って一人旅に出たのであった。
彼はベルンに到着した。彼は馬で町に入り、王の宮廷に行った。そこへゆくと、リスパから降りて、一人の家来に馬を託し、彼が使命を果たすまで自身の槍に注意を払っていた。それからヘイミルが館の墓に入り、王の高座に近づき、挨拶をした。
それから彼はシズレク王子に話し掛けた。
「貴殿の名は遠くにまで行き渡っている。俺ははるばるここにやってきた。俺は貴殿と競い合いたい。勝った方が相手の武器を手に入れるってのはどうだい。」と言った。
シズレクは怒って答えた。
「今までそんなことを言った者はいない。言葉に気をつけろ。」と言った。
そして彼は館から出て行って、彼と共にヒルディブランドが行った。
シズレクは防具を持ち、一人の騎士が彼のところへ武具を着けた馬を連れてきて、また他の者がチェーンメールを持ってきて、またある者は盾を持ってきた。この盾はおおきくて、堅く、獅子が描かれた血のように赤いものであった。4人目がヒルディグリームの兜を運んできて、彼はナグルフリングの剣で武装したのであった。5人目の騎士が馬を連れてきて、6人目が鞍を持ってきた。7人目が槍を持ってきて、8人目がヒルディブランドの所有のあぶみを持ってきた。

20・Einvígi Þðreks ok Heimis.

ヒルディブランドとたくさんの騎士を連れてシズレクがやって来た。ヘイミルは戦の支度が十分に整っていた。両者は馬の首をくるりと翻し、勇敢に馬を駆った。互いに槍を相手の盾に投げつけた。どちらの槍も当たらなかった。それから両者とも突撃した。これも何も起こらず、再度、激突した。ヘイミルが槍をシズレクの盾に突き刺し、それは彼の手の下をすり抜けて鎧に食いついた。しかし傷つけることはできなかった。それからシズレクがヘイミルの盾を打ち付け、彼の2重のチェーンメールにぶすりと入った。ヘイミルは怪我をした。激しく突撃したので、シズレクの馬が後ろ足をがくりと折った。シズレクの脚が地面についてしまったのだが、彼は勇敢にも鞍から降りなかった。彼らは互いに槍の穂を壊していた。こうして馬上での闘いが終ったのである。
彼らは馬から降りた。そして剣を抜いた。それから彼らは剣を交わし、長いこと勇敢にも闘った。しかし決定的なものとはならなかった。そしてヘイミルがシズレクの兜のヒルドグリームをブローズガングの剣で攻撃した。そしてこの攻撃で剣が真っ二つになった。シズレクはヘイミルを殺害することを望まず、彼を家臣として受け入れ、彼らは親友になったのであった。シズレクはベルンに馬で戻り、彼の名声はまた上がったのであった。


サガトップに戻る / シズレクのサガのトップに戻る / 次へ