遠い記憶

2.草原の章


その4

 外から中へ戻った後も宴会は当たり前のように続き、ようやくお開きとなったのは夜もかなり更けてのことだった。すぐ近くに建てられたゲルの一つにホンジが案内してくれる。寝台が二つ置かれた小さなタイプ。そこが今日の宿泊所だった。
「さすがに眠いね」
 装飾品を外して顔を洗い、パジャマ代わりのスウェットに着替えて美幸がつぶやく。すでに意識は寝に落ちているようで、目の焦点があっていない。
「うん……」
 中途半端にうなずきながら、寝台に腰を下ろす。久しぶりのちゃんとした寝床。それなのに、私の方は目が冴えて眠れそうも無かった。確かに体は疲れてはいるんだけれど、意識が妙に高ぶっている。
「灯り、消すよ」
「あ、待って」
 灯りを吹き消そうとする美幸を制止して、私はランプを手に持った。
「ごめん。ちょっと散歩に行って来る」
「散歩?」
 不審そうに聞き返すその声をあえて無視し、外に出る。背中越しに「先に寝るから。迷子にならないようにね」という言葉を聞いて、手を振った。

 外に出ると、これからどこに向かって歩くかを決めるため、ぐるりと辺りを見回した。
 簡易式ではないゲルがいくつも建てられていることや、社務所ゲルの近くにあるということから、ここがいわゆる関係者エリアにあたることがうかがえる。さすがに明日のお祭り本番を控え、明かりをつけてまで起きているところは無かったけれど、それでも時々人の話し声が洩れ聞えてきた。遠くで馬が身じろぎする蹄の音や、短い鳴き声なんかも聞えてくる。やはりこれだけの人間や家畜が集まっていると、例え夜中といえども気配は雑多だ。下手に人と出会ってしまうのは避けたかったので、自然に足は社務所の奥のほう、ハダクの丘の手前に進んだ。夜の冷えた風が頬を掠めるのが心地良い。
 先ほどまでの喧騒とはうって変わった静けさの中、少しずつ心が落ち着いてくる。適当なところに腰掛けようとして左右を見渡したら、自分以外にも人がいるのを見つけてしまった。拓也だ。
「何しているの?」
 岩の上に座り、ぼんやりと空を見上げている彼に話しかける。
「酔い覚まし」
 短く答えるその姿に、宴会の様子がよみがえった。
「お酒、きつかったもんね」
 馬の乳で造った醗酵酒はアルコール度数が低く、子供でも普通に飲んでいた。その代わりといってはなんだけれど、しばらくして回ってきたのが蒸留酒だ。こちらは匂いだけでも酔ってしまいそうな勢いだった。あれを水で薄めずに飲んでしまうこっちの人達は、かなりお酒に強いと思う。
 結局呑めないで杯を置いてしまったお酒の、むせ返るような匂いを思い出す。つい鼻に皺が寄ってしまったところで、拓也の声がした。
「もう着替えたんだ」
 その言葉にあらためて彼を眺める。正装のままの拓也の格好。あんな盛り上がった宴会の後だけに、多少は着崩れている。でもそれがだらしなく見えずに着こなしに見えるあたり、お見事としか言い様が無い。一方の私はといえば、すでに美幸と同じくパジャマ代わりのスウェットだ。
「さすがにね。あの髪飾り、結構重いんだ。頭痛くなってきたくらい」
 つい要らない説明を、言い訳のようにつけてしまう。
「似合っていたのに」
「褒めても何も出ないよ」
 ははっと笑って拓也の隣に座る。いつもの調子で言葉を返して、それがなんだか楽しかった。まだ馴染まない「アクタ」から、ようやく「真子」に戻れた感じだ。
「さっきは、ありがとうね」
 ふうっと息を深く吐いて、ようやく感謝の言葉を口にした。
 外に出て人々の前に立ったとき、ずっと私を支えてくれたのは拓也だ。きちんとお礼を言いたかったけれど、今までゆっくりと話すことなんて出来なかった。
「本当に、似合っていたのに」
「ん?」
 いつまでも話を引きずる拓也に戸惑って、反射的に彼を見る。途端に、真っ直ぐにこちらを見つめ返す瞳に引き込まれた。
 真っ直ぐなのに、どこか考えあぐねているような拓也の表情。なぜか胸がぎゅっと締め付けられる思いがする。
「……結構、酔ってる?」
 うかがうように聞いてみた。
「酔い覚ましが必要な程度にはね」
 そういえば拓也の隣で呑んでいたヒコは、酔いつぶれて途中で宿舎へ担ぎ込まれていた。拓也だってそれなりには呑んでいるはずなんだ。
「馬乳酒だけにしておけば良かったのに」
「お祭りだから、良いんだよ」
 そんな意味の無い言い訳に反論しようと口を開きかけ、黙り込んだ。この世界に来る直前の、最後に見たパパの顔がふいに思い出される。急に足元がぐらつくような不安定な気持ちになって、目を伏せた。
「真子はこっちに来たこと、後悔している?」
 静かになった私に、拓也がそっと尋ねた。
「なんでそんなこと、聞くの?」
 体育座りをしたその膝に、顔をうずめる。
「無理させたから。記憶が無くてもアクタとしてここにいろとか、無茶苦茶なこと言っていたよな、俺」
「でも」
 でもそう言ってくれたから、「俺が付いている」って言ってくれたから、あの場を切り抜けることが出来たんだ。
 そう言いたくて顔を上げて、でも拓也の顔を見てまた黙ってしまった。考えあぐねた表情は、傷を抱え痛みをこらえているような、そんな表情にもまた見えた。
「……後悔って、自分が選んだ結果に対して使う言葉だよ」
 気が付いたら自分でも何が言いたいのか良く分からないまま、そう口にしていた。
「私、まだ何も選んでいない。流されてばかりいる」
 思い出せもせず、受身に回るだけの自分がもどかしい。こうして美幸や拓也、周りの人に気を遣ってもらってばっかりだ。
「ごめん」
「なんで拓也が謝るの」
「真子を連れてきたのは俺だ。前世でも、現世でも。アクタは、キョエンに来るべきではなかった。ケレイトの長として生きるべきだったんだ」
「そんな、覚えていない頃の話で謝らないで」
 これ以上拓也の傷付いた顔を見たくなくて、慌てて口を挟む。けれど私の言葉にびくりと体を震わせ目線が落ちて行く彼を見て、失言をしてしまったことに気が付いた。自分の覚えていない話に対して謝るな、なんて、取り様によってはかなり冷たい台詞だ。
「現世でも、何も覚えていない真子をこちらの世界に引きずり込んでしまった。不安だよな。いきなり玉を探せ、世界を救えって言われてさ」
「拓也」
 言葉が足らない自分のせいで、拓也が一人追い詰められてゆく。どうして良いか分からないから、彼の肩をぎゅっと掴んだ。
「拓也」
 彼の心に届くようにと、名前を呼ぶ。
「ごめん。後悔しているのは、俺のほうだ」
 のろのろと顔を上げ、私を見つめながらそう言う彼の視線は、遥か先を見ているようだった。
「アクタを殺した」
「拓也がじゃないでしょ」
「でも、俺を庇ったから殺されたんだ」
「拓也だって殺された。同じだよ」
 拓也はそれには答えず、ただただ私の顔をぼんやりと見つめていた。ひどく遠い表情。その瞳には私のことなんて映っていないんだろう。彼の瞳に映るのは、私の前世。アクタの顔だ。
「……私が、前世を早く思い出せば良いのかな」
 アクタであった頃を思い出せば、この目の前で自分自身を責める人を受け止めることが出来るんだろうか。同じ世界を共有することが出来るんだろうか。
 真子では届かない心の奥底を、アクタであったらなら晒してくれるような気がして、そう尋ねた。
「いい」
「え?」
「思い出さなくていいよ」
 ふいにフォーカスを合わせるように私に意識を戻すと、強い口調で拓也が言い切る。すぱんと、私の想いが断ち切られたようだった。
「なんで? 思い出せって最初に言っていたじゃない」
「思い出したくないのかも知れないだろ」
 突然一つの可能性を持ち出され、混乱する。拓也の顔は真剣で、只の思いつきで口にしたのではない事がうかがえた。
「この数日、考えていた。人々に望まれ託された使命を遂行するため、アクタはケレイト族の長という予定された座を捨ててきた。それなのに、チャガンをキョエンに持って行ったら、謀反者として扱われたんだ。挙句の果てに俺を庇って殺された。思い出したくも無い過去だって言われても仕方ないよ」
「そんなの、そんなの分からないじゃない。ただ単に覚醒するのが遅かっただけでしょ。思い出したくも無い過去なのかは、分からない」
「あの時、俺とコンビニで会わなかったら、真子はここに来ていなかったんだ。ここに来る気が無ければ、前世の記憶なんて必要ない。思い出そうとする必要もないだろう?」
「それは」
 事実を交えて話されて、どう反論して良いのか分からずに言葉が途切れた。理論的に話すのって、苦手だ。
「真子は、あっちの世界に帰りたいんだよな。それなら余計に、今後も前世の記憶は必要ないよ」
 さっきの勢いから落ち着きを取り戻し、ぽつりと宣言するように拓也が言う。その言葉にも何も返せず、結局私は黙り込んでしまった。私の脳裏には、廊下に座り込み手を振るパパの顔や、春休みでも一緒に遊んでいた友達の顔が浮かんでいる。彼らをすべて捨ててこの世界で生きるという覚悟は、今の私には出来なかった。
「宿舎の位置、分かる?」
「……うん」
「俺、もう少しここにいるから、先に帰って」
 うつむいた私に、拓也がそっとランプを握らせる。
「お休み」
「……お休み」
 彼のペースで話を進められ、上手く切り返せずに引き下がる。
 拓也の心に、私は踏み込めない。
 転ばないよう足元を見つめて歩きながら、そんな事をぼんやり思った。なんだか悲しくて、悔しくて、涙がにじんだ。


 草原の朝は早い。
 あれだけ暗い気持ちで戻ったというのに、寝台に横たわった途端に私の意識は落ち、気が付けば扉の隙間からこぼれる朝日のまぶしさに目を覚ましていた。よっぽど深い眠りだったのか、眠気もすっきりと取れている。
 私、悩んでいたはずじゃなかったのかな。
 あまりの爽やかさに、なんだか罪悪感というのか引け目すら感じるほどだ。
「美幸、朝だよ」
「んー、あと十分ー」
 普段は私よりも早く目覚める美幸が、珍しく駄々をこねている。まあ確かに昨日は遅かったしね。
 苦笑しつつ、とりあえず着替えて一人で外に出た。
 一歩外に出れば、すでに忙しく働いている人達の姿が見えた。人間がいくら夜更かしをしても、動物には関係ない。まずは家畜の世話という事で、牛の乳搾りや馬の手入れなどみんな手早くこなしている。その中で桶を手に歩く人物を見つけ、慌てて呼びかけた。
「ホンジ!」
 声に気が付き振り向いて、ホンジが手を上げて何か言う。のんびりとした口調のそれはジハンもよく口にする言葉で、お早うとかこんにちはとかの挨拶の言葉だ。それを受けて小走りで彼女の元へ駆け寄ると、私はとりあえず自分の要望を伝えてみた。
「お早うございます。顔を洗いたいんだけれど、お水もらえませんか?」
 もちろん顔を洗うジェスチャーも忘れない。水差しの水は、昨夜で使ってしまったんだ。ホンジはすぐに納得したようで、近くのゲルから水汲み用の桶を持ち出し、井戸まで連れて行ってくれた。
 さすがに関係者エリアだけに、井戸はすぐ近くにあった。すでに行列が出来ていて、しばらく並ばなくてはいけないなと覚悟を決める。けれどホンジは気にしないようで、私を連れてどんどんと先頭まで歩いていった。
「サインバイノー!」
「アクタ、サインバイノー!」
 ホンジが私に向かって言った挨拶を、並んでいる人達にも言われる。
「えーっと、サインバイノー」
 真似して返答したら、にこにこと微笑まれた。
 VIP待遇で井戸の水をもらい、一旦自分のゲルに戻って顔を洗う。ようやく起き出した美幸に声を掛け、一緒に教えてもらったホンジのゲルまで行った。
「朝食はこっちで食べようって誘われたんだ」
「言葉通じたの?」
「ううん。気合と身振りと、後はカン」
 そう言い切ると、なぜか美幸にくっと笑われた。

 夏とはいえ朝はまだ涼しい。澄んだ空気。抜けるような青空と、広がる草原。五人で旅をしているときは当然とは言え、ゲルという宿舎があっても誰も中に篭もる人はおらず、当たり前のように外でご飯だ。
 メンバーはホンジと美幸と私、それに昨日私の髪の毛を結ってくれた女の子ナランと、その彼女にくっついている姉妹らしき子供が二人だった。ようやく一人で歩けるようになったくらいの子と、それよりはもう少し大きい四、五歳くらいの子。大きい子はナランにぴったりとくっついて、はにかみながらこちらを見ている。
「この子達の親って、ホンジ?」
 微妙に年が離れすぎかなと思いつつ聞いてみた。
「ナランの子だよ。上の女の子がオユナで、下の男の子がニャムヤム」
「えっ。ナランって何歳なのっ?」
 せいぜい私と同い年、くらいに思っていたナランがお母さん。それにも驚いたけれど、他にも、髪の毛伸ばしてお団子まとめにしていてどう見ても女の子のニャムヤムが男の子。とか、いやそれよりもニャムヤムって名前はなんか異質。とか、いっぺんに色んな事を思ってしまった。そんな私の表情をホンジとナランが不思議そうに眺め、それを受けて美幸が解説をしてくれる。
「ナラン、二十歳だよ。オユナ産んだときは十六歳だった」
「十六歳」
 繰り返しつぶやくと、ナランがごく当たり前の顔でこくりとうなづく。
「こっちでは、私達くらいの年齢はもうとっくに結婚しているんだよね。あと子供は、四歳までは男女関係無く髪の毛は切らずに伸ばすの。幸運が逃げないようにね。で、四歳になったら男の子は髪の毛を切って、男女ともに名前とお祝いの馬をもらうと」
「名前って、ああそうか。ニャムヤムは仮の名前か」
 前にジハンに説明してもらった事を思い出す。
「そういえば、ジハン達は? なんで男の人達いないの?」
 今更遅いけれど、気が付くと女性だけのこのメンバーを不思議に思って聞いてみた。
「多分馬の世話に行っているんじゃないかな。そっちで適当に食べているはず」
「そっか……」
 なんだか気が抜けたみたいで、息を吐き出した。そして昨夜の拓也を思い出す。
 私、どう接すれば良いんだろうなぁ。
 飲み終えた牛乳のお椀をぼんやりと眺めた。

 人に過度に期待されるのって、怖いし辛い。それが自分の知っている今の、現世の自分のことではなく、自分の記憶に無い前世の自分のことなら尚更だ。
 ここでこうして和やかにホンジやナランとご飯食べていられるのも、井戸に水汲みに行って優先してもらうのも、お早うって声かけてもらうのも、全部私がアクタ・ケレイトアだからなんだ。決して私が成田真子だからなんじゃない。昨夜集まる人々を見て、それを実感した。せめてアクタがもっと普通の女の子だったら、もうちょっと気が楽だったかもしれないのに。
 でも、
「真子、牛乳お代わりいるか? って」
「いる。バイルラー、ホンジ」
「ズゲール」
 こちらの言葉でお礼を言ったら、ホンジからすかさず「どういたしまして」と帰ってきた。
 親しみの篭もった、にこやかな微笑み。その表情につられて、私の顔にも自然に笑顔が浮かぶ。
「思ったんだけれどさ」
 なんだかどうしても口に出して言いたくて、私は美幸に向かって語りだした。
「これって記憶喪失の人間が、記憶を失う前の友人に会っている状況と同じだよね」
「何よ、突然」
「いやまあ、色々と思うところがあって」
 話の展開に付いていけないといった表情で、美幸が眉を寄せる。私はそんな彼女を見つめながら、なおも考えていた。
 いくら私が今の自分は成田真子であって、もうアクタ・ケレイトアではないと主張したところで、実際にアクタだった頃を知っている人には通用しない。でもそれは、今の真子を否定しているってことにはならないんだ。ここの人達は単純に、真子もアクタも同じだと思っている。
「まあ、過去の記憶は繋がっているからね」
 ふいに美幸がつぶやいた。その目は遠く、同じ場所にいるのに私とは違う景色を眺めている。
 拓也も、同じだ。
 私を通して前世の私を見つめ、拓也は後悔にさいなまれている。前世の私に負い目を持って、だからこそ現世の私を尊重し、アクタではなく真子として扱おうって決めている。
 でもそれって、どうなんだろう。
 思い出さなくていいって言葉、私には救いにはならなくって、逆に拓也に拒絶されたようにしか感じなかった。繋がっているはずの過去を、私一人だけが手繰り寄せることが出来ずにいる。拓也の思いやりと私の気持ち、すれ違ってばっかりだ。
「気が合わないのかなぁ」
「誰が?」
「拓也と私」
 言った途端、美幸に吹き出されてしまった。
 それどころか、お腹を抱えて笑われている。
「笑いすぎじゃないの?」
「昔もこんなことがあったなって、思い返したわ」
「昔も?」
 美幸の言葉に驚いて、聞き返す。美幸は珍しく楽しそうな表情で、私の事を見つめていた。
「アクタがキョエンにはじめて来た時、旅はどうでしたかって聞いたの。そうしたら、サイムジン・ハングとは気が合わないって答えられて」
「同じことやっていたんだ、私」
 うっわー。なんか、余計にどうしようって感じだ。
 頭を抱えて反省していたら、その様子が面白かったのか、ホンジとナランにまで笑われた。美幸の話は二人にも通じているし、私と直通の会話が出来ないだけで、十分に同じ話題に乗っている。ひとしきり笑ったあと、ナランが私に向かって何かを言った。
「このあと、お昼から雨乞いの儀式が始まるの。真子と私は正装して参加ね。ナラン達が着替えるの手伝ってくれるけれど、その前に仕事片付けたいから待っていてって」
「分かった。でも仕事って何するの?」
 手伝えるものなら手伝おうと思い、聞いてみる。
「ジハンが羊を屠るから、その解体」
 その言葉に、直前までのやる気が一気に失われてしまった。昨日見た、お皿に山盛りの塩茹で羊を思い出す。
「それって、私も手伝うって言えるレベルの話じゃないよね」
 じりじりと後ずさりをするように確認した。
「エルデもいるしね。他にこの二人もいれば手伝いの必要は無いと思うけど」
「エルデ?」
 初めて聞くその名前を繰り返す。
「ジハンの奥さん」
 ごく当たり前のようにあっさりと、美幸が解説してくれた。
「ジハン、結婚していたのっ?」
「だから、こっちでは十代で結婚しているの当たり前なんだって。ジハン二十四歳だし」
 確かにそう言われればそうなんだけれど、全然考えもしていなかった。予想外だったから、素直に驚きだ。
「ジハンの奥さんって、どんな人?」
 ちょっとわくわくしながら聞いてしまう。
「昨日の宴会で馬乳酒注いでくれた人」
「みんな注いでくれたから、そんな説明じゃ分からないよ」
「なら、見に行けばいいじゃない」
 美幸の言葉に一瞬迷って、でも結局好奇心を抑えきれずにうなずいた。
「そうだね。一緒に行く」
 私の宣言が朝食終了の合図になったみたいだ。全員でこの場を片付けると、早速ジハンのいる場所へと向かった。