二人の会話

第三部  二人の会話


その五

 翌日。卒業式本番の日になった。俊成君はいつもと変わらず私を迎えに来て、朝の登校が始まった。
「行くぞ」
「……ん」
 通いなれた道を、二人並んで歩いていく。
 半歩だけ先を行く俊成君。でも、一人で歩くときよりも歩調はゆるやかで、さりげなく私に合わせてくれている。これがいつもの二人の速度。
 電車に乗るとごく自然に、俊成君は私とは反対側にある吊革につかまった。いつもの動作。だから見上げると、彼の横顔は腕に邪魔されることなく近くにある。
 愛想はないけれど、その分精悍さを感じる顔つき。瞳が意外と茶色いのを知ったのは最近のこと。そうっと横顔を見つめたら、思ったよりもまつげが長いのも今更ながら気が付いた。
 どきどきする。
 気付かれないようにそっと息を吐いて、私も視線を窓の外に移す。電車が揺れるたびに二人の制服が触れ合って、その距離の近さを意識した。
 私の隣で立っている人。
 私の隣で笑う人。話す人。見つめる人。
 いつもいつでも、私のそばにいて欲しい人。
 窓ガラスに俊成君が映って、見つめることが出来ずに目を伏せた。
 幼馴染だからと繰り返し自分の心に言い聞かせて、今まで何も感じないようにしていた。けれどひとたび、こうして意識をしてしまうと気持ちがどんどんあふれてゆく。

 駅に着くと、ちょうど反対側の電車から美佐ちゃんが降りてくるところだった。
「美佐江!」
 勝久君が呼び止めて、一緒に学校へと歩き出す。
「最終日にこの四人で登校っていうのも、なんからしいよね」
 ふふって笑いながら美佐ちゃんが言った。
「太田だけ別方向だったしな」
 俊成君の言葉に、勝久君が拗ねたような口調で反論する。
「けど同じ時間帯に登校しているんだから、駅で待ち合わせってことも出来たんだぜ」
「いや。そんなわざわざすることないから」
 きっぱりと言い切る美佐ちゃんに、俊成君が軽く吹きだす。勝久君は余計に拗ねたように鼻をすすった。私はそんな光景を見ながら笑っているけど、心のどこかは別の考えに気が取られてぼんやりしていた。
「あーずーさ、今日行くんだろ?」
 急に目の前で手をひらひらと振られ、慌てて顔を上げる。
「どこに?」
 聞き返したら、美佐ちゃんが思い出させるように答えてくれた。
「カラオケ。うちのクラスの打ち上げ、行くでしょ?」
「え? あ、うん」
 そういえばそんな話だったと思い返して、慌ててうなずく。
「打ち上げやるんだ」
 俊成君がつぶやくと、勝久君がにやりと笑った。
「お前んとこのクラスと違って、うちは団結力あるからな。まあ全員って訳じゃないけど、結構集まるぜ。羨ましいだろ」
「っていうか、お前、バスケ部の打ち上げも企画していただろ。そっちはどうするんだよ」
「大丈夫、時間は重ならないよ。うちのクラスのが卒業式終わってすぐで、バスケ部のが夕方からだからさ。だてに幹事はやってないぜ」
「……もしかして、両方とも幹事やってるのか?」
 勝久君本人にではなく、俊成君は美佐ちゃんにたずねる。美佐ちゃんは肩をすくめるとうなずいた。
「大学受かったから、浮かれてるのよ」
「ああ、確かに」
 俊成君も呆れたように肩をすくめたけれど、勝久君は気にせず得意そうな表情をしている。和やかな空気。でも私はいつものように話に参加することが出来ずに、うかがうように辺りをそっと見回した。もう校門をくぐったというのに、清瀬さんが現れない。
 下足箱まで行くと、私は俊成君の上着をそっと掴んだ。
「どうした?」
「話、あるの。卒業式終わったらすぐそっちに行くから、待っていて」
 顔を上げることが出来なくて、視線がどうしても落ちていって、俊成君の肩に向かって話していた。鼓動が早すぎて、心臓が口から出そうだ。普段何も考えずに一緒にいた分、あらためて会いに行くと宣言するだけでも緊張する。カバンを握り締める手のひらが、汗で湿っていた。
「すぐに行くから、それまで絶対に待っていてね」
 他の子が来ても、清瀬さんが来ても、ついて行ったりしないでね。
 言外にお願いを潜ませて、繰り返す。
「分かった」
 俊成君は返事すると、すっと私から離れていった。家を出てからここまで、ずっとふさがっていた私の隣に空きが生まれ、冷たい空気が入り込む。寒さと心細さを感じて震えたら、美佐ちゃんがそこに立った。
「頑張れ」
 その言葉に顔を上げると、二人と目があった。昨日は即答できなかった私の決意。もう二人は何も聞かないけれど、これから私がしようとしている事を分かってくれている。
「……うん」
 小さくうなずくと、教室に向かった。

 
 卒業式が始まった。
 小学校、中学校の時は事前に何度もリハーサルがあって、合唱の練習をしたりおじぎの角度合わせたり、結構面倒くさかった記憶がある。けれど高校の卒業式はリハーサルも無く、説明を昨日一回だけ聞いた程度だ。合唱も、たまにしか歌わないから歌詞もうろ覚えの校歌をなんとなく歌うだけで終わり。卒業証書の授与も、一人一人なんかじゃなくて、学級委員が代表で受け取ってゆく。簡単なものだった。
 それでも校長先生の話とかPTA会長の話なんかは簡略できないみたいで、こういうのだけはやけに時間がかかっている。
 ため息とかささやき声とか、しだいに辛抱しきれず緊張感が緩んでくる体育館の中、私は前方にいるだろう俊成君の方をぼんやり眺めていた。

 初めて、自分から俊成君の所へ行くと言った。だから待っていてとも言った。
 私から行くと言ったのは、もし万が一、俊成君を呼び出して場所を移動しているときに、俊成君と清瀬さんが出会ってしまったら嫌だったから。清瀬さんは「言った者勝ち」の法則を利用して、俊成君に告白しようとしている。私がこれからすることは、明らかにそれを妨害することだった。

 ごめんなさい。

 後ろめたさとか罪悪感とか、そんなもの抱え込んで胸の中で清瀬さんに謝る。でも、私の決意は変わらない。
 私にとって俊成君の幼馴染であり続けることは、とても心地よいことだった。俊成君と月日をかけて少しずつ築き上げてきた信頼関係は、揺るぎない。この関係があるから、幼馴染だから、私は俊成君と一緒にいられる。大切にしてもらえる。でも、私たち二人が築いていったのはあくまでも信頼関係であって、恋愛じゃないんだ。
 私は傍にいる事の意味をいつの間にか、はき違えていたのかもしれない。
 誰よりも好きなのに。って、清瀬さんの言葉が辛かった。
 好きだったら、自分以外の人を側に置いていて欲しくないって思う気持ち、当たり前だ。清瀬さんはとても当たり前の気持ちを私に告げた。とてもストレートで、素直な言葉。
 好き。って、ただそれだけのシンプルな感情。
 私が気付かない振りをして、ずっと誤魔化していた気持ち。
 でも、もう気が付いてしまったんだ。私の中にある気持ち。
「あずさ、式終わったよ」
 声をかけられて、慌てて立ち上がる。

 私はこのあと、俊成君に告白をする。


 教室に戻ると担任から最後の挨拶があって、そこからようやく一人ずつに卒業証書が渡された。式も簡単だったけど、クラスでのお別れも結構あっさりしていた。一部の、感傷に浸って泣いているような子達は普段から感情が豊かな子達で、後のみんなは笑いながら和やかに話している。まるでお祭りの後の余韻を楽しんでいる気分。寂しいんだけれど、まだ今までを振り返る気にはなれない。この後のカラオケがあるっていうのも影響しているのかもしれない。まだ本当の最後は終わっていないから、だから余裕でいられる。
 高校生活最後のホームルームが終わったのを確認すると、私は速攻で立ち上がった。
「じゃあ、行って来るね」
 美佐ちゃんに声をかける。
「お店の場所は分かっているよね」
「うん」
「なにかあったら連絡して。待っているから」
「うん」
 多分私、緊張して顔がこわばって、変な表情になっているはずだ。それなのに美佐ちゃんも勝久君も、私を見て優しく微笑んでいる。
 ありがとうね、美佐ちゃん、勝久君。
 カバンをぎゅっと握り締めて、私は早足で俊成君の教室に向かった。

 私がこれからしようとしていることは、一番バッターの座を奪い、俊成君に告白をすること。
 清瀬さんには申し訳ないけれど、でも「言った者勝ち」ってだけで彼女が選ばれるのは嫌だった。彼女を選ぶ前に、私の気持ちを聞いてもらいたいんだ。
 ずっと傍にいたかったから、幼馴染って関係に満足しているふりをした。それ以上の関係を目指そうとして今の関係が壊れてしまうのが怖くって、自分の気持ちすらだましていた。けれど、そんな関係にこだわってしがみついて、立ち止まっているだけではいけないって気が付いた。もっともっと一緒にいたい。私を見ていて欲しい。「言った者勝ち」の法則が誰に対しても有効なら、私は清瀬さんから一番バッターの座を奪うことを厭わない。
「倉沢、いる?」
 ざわつく教室をのぞき込むと、私は手前に座る男の子に声をかけた。
「あれ? 宮崎めずらしいな。お迎え?」
 何気なく声をかけたのに、男の子は一年のときのクラスメイトで、私と俊成君の関係を知っていた。
「うん。用があって。いる?」
「出て行ったよ。なんか後輩に呼び止められていた。バスケ部のマネージャーとか言っていたけど」
 のんびりとしたその口調に、私の顔が蒼ざめた。
 嘘。なんで俊成君、清瀬さんと行っちゃうの。
「どこっ? どっちに行ったの?」
「え? あー、ごめん。そこまでは……」
 私の剣幕に押されたようで、彼は焦ったように頭をかいた。
「ごめんね。ありがとう」
 悪いことしちゃったなとちらっと思ったけれど、でも私が出来たのは謝ることだけだった。それすら言い捨てるようにして、校舎の中を走り出す。

 今まで、彼女が出来ても私たちの関係が変わらなかったのは、俊成君の思いやりだった。ごく自然に距離を置かれ、彼女から私という幼馴染の存在を隠し、それで私も満足していた。でも、それは本来だったらとっくに気が付いていなくてはいけないことを先延ばしにしていただけのことだったんだ。彼女の目から私を隠すのと同じように、私の目からも俊成君の彼女という存在はひどく遠かった。
 でも、清瀬さんは違う。清瀬さんは私に直接訴えてきたから。彼女のお陰で今までの自分がいかに甘い考えだったか分かった。ある意味感謝はしているけど、でも、だからといって俊成君の彼女になって欲しいわけじゃない。

「どこ? どこにいるの?」
 屋上まで駆け上がって重い扉を勢いよく開け放ったけれど、そこには二人の姿は見えなかった。息を切らしながらつぶやくけれど、じっとしてなんかいられない。私はもと来た道を引き返す。
 そもそも非体育会系で帰宅部の私が、学校内での俊成君の行動を予測できると思わない。それなら手当たりしだいに探すまでだ。屋上にいないなら、
「体育館、……裏!」
 目標を定めると、私の足は速さを増した。

 卒業式当日は一、二年生は休校で、だから校舎も閑散としていた。けれど校庭に出てしまうと、卒業生やそれを見送る下級生、先生や父母達で結構にぎわっている。体育館の周辺もそんな感じで、何人かの生徒達とすれ違った。しかし裏手の部室があるところまで行くと、さすがに人気もなくなってくる。私がすぐに来ることを知っている俊成君がここまで素直に行ってしまうか分からない。でも可能性がある限り行ってみなくちゃって思った。
 走るのは、一月最後の体育以来。息が上がる。苦しくって、苦しくって、でも立ち止まるなんて考えられなくて、ひたすら走る。

 部室の並ぶ一角に辿り着こうとしたときに、ふいに清瀬さんが現れた。
「あ……」
 立ち止まり、彼女を見つめる。彼女も走ってくる私にすぐ気が付いたようで、一瞬びくりと体を震わせ立ち止まった。
 必死になって走ったお陰で、口がきけない。しばらくぜいぜいと息を整えていたけれど、その間彼女を観察することが出来た。
 ハンカチを手にもって、目と鼻が赤い。泣いているみたいだけれど、嬉し泣きってことは、無いよ、ね?
 息が上がっているだけじゃない。結果がどうなったのか早く知りたいのに、緊張して話しかけることが出来ない。清瀬さんはそんな私を睨み付けると、こちらに早足で近付いてきた。
「振られました。私」
 まるで挑戦するかのような勢いで報告され、それでも聞いた瞬間にほっとしてしまった。
「そっか……」
 何を言ってよいのか分からずに口ごもる。
 なぐさめなんて、今更うそ臭くて言える訳が無い。けれど、「言った者勝ち」の法則が初めて敗れてしまったなぁ、とか、これで心置きなく私も告白できるとか、さすがに今の自分の気持ちを正直に目の前の彼女に言うのにはためらわれる。
 一番バッターの座を奪おうとしたことも合わせ、なんだか私は清瀬さんにひどいことばかりしているような気になった。
「宮崎さんは、知っていたんですよね」
「え?」
 ちょっと弱気になってしまったこちらに対し、清瀬さんは挑みかかるような目つきで圧してくる。けど、何を言っているんだろう。
「知っていたから、余裕だったんでしょ。一人であがいちゃって馬鹿みたい。私」
「なんの、話?」
 息はもう整っていたけれど、鼓動の速さは治まらない。何の話か全然想像できない。でも、嫌な予感だけはじわじわと沸いてきた。
「大学です。明後日の合格発表で受かっていたら、地方の大学に行くって。新幹線で三時間かかるって。だから誰とも付き合う気は無いって」
「な、に?」
 意味がよく分からなくて、聞き返した。清瀬さんは誰の話しをしているんだろう。地方の大学って、何のこと?
 けれど戸惑う私とは反対に、清瀬さんの目つきはどんどんときつくなって、さらに感情的になっていった。
「とぼけないで下さい。倉沢先輩のことですよ。知って、いたでしょう? 知っていて、私が先輩に気に入られようとして頑張っているの見て、笑っていたんでしょ!」
 興奮してくる清瀬さんを見つめ、私は呆然としていた。地方の大学に行くって、俊成君が? 新幹線で三時間って?
「知らない。そんな話、私は知らない。」
「え?」
 蒼ざめてゆく私の表情の変化に、清瀬さんが黙り込む。それでも信じきれないように口を開きかける清瀬さんを無視し、私はまた走り出した。俊成君がいるであろう部室の方に。

「俊成君っ」
 俊成君がちょうど部室から出てくるのを見つけ、駆け寄った。
「あず」
 驚いたように俊成君がこちらを振り返る。
「悪い。急に用事が出来て」
「大学。地方に行くって、本当?」
「え?」
 俊成君の目が一瞬大きくなって、黙り込んだ。その表情から、なぜ私がそれを知ったのか考えていることがうかがえる。
「清瀬さんから聞いた。地方の大学に行くって、本当?」
 早く答えを知りたくて、先回りをする。俊成君はそんな私をじっと見つめると、一言いった。
「本当だよ」
 その瞬間、足元がばっくりと割れ、地面に吸い込まれるような気がした。この人は、何でこんな落ち着いた声をしているんだろう。
「私、その話知らなかった」
「受かれば、の話だから。明後日にならなければ分からないし」
「でも、受かれば行くんでしょ?」
「……ああ」
 俊成君がうなずく、その顔を見つめていた。俊成君もこちらを見つめ、お互いに黙り込む。
 嫌な沈黙だった。俊成君はもう説明すべき事をすべて言ってしまった気でいるかもしれないけれど、私はこの後何を聞いたらいいのか考えあぐねている。そしてその一方で、私は今までの俊成君の行動にようやく理由を見出していた。進路の話になると決まって揺らいだような表情を見せていたのは、このことだったんだ。
「いつ決めていたの? そこに行くって」
 二週間ほど前の、おばあちゃんのお墓参りを思い出す。あの時はすべてを言わない俊成君に対し、そのうち話してくれるからとのんびり構えていた。なのに今、私はここでこうして詰め寄っている。
「三年になってから。二学期の進学模試の結果見て決めた」
 あくまでも淡々と返答する俊成君の顔を見ていられず、視線を落とす。
 本当は、いつ決めたとかどうでもいいんだ。本当は、それをどうして私に教えてくれなかったのか、それが知りたいだけ。話すまでもないことだったのかな。結局、幼馴染ってその程度の仲だったのかな。
「……約束、したよね」
 気が付くと、私はぽつりとつぶやいていた。今私の視線は足元にあるから、目の前に立っている俊成君の姿は映らない。私の心が映し出す俊成君は、おばあちゃんのお墓の前で手を合わす姿。そして小学五年生の夏の日、おばあちゃんをのぞき込むあの姿だ。
「私を守ってくれるって、約束してくれたよね」
「あず」
「おばあちゃんと約束したよね。あれはどうするの? そんな離れたら、守れないじゃない。俊成君は約束を破るつもりなのっ?」
「あず」
「あ……」
 言った後、一気に血が駆け巡ったような気がした。何を、何を言っているんだろう。今まで気にしたことも無い古い約束引っ張り出して、俊成君をなじっている。何をしているんだろう、私。
「ごめんっ。今のは」
「無効だよ、あず」
「え?」
 無しにしてって言うつもりだったのに、俊成君の静かな口調が、耳に響いた。
「俊成、君?」
「ばあちゃんは、もういない。約束は無効だよ、あず」
 弾かれたように顔を上げ、俊成君を見つめる。真剣な表情。私の感情的な発言に怒るでも無く、真っ直ぐ向き合って宣言している。でも、その内容が無効だなんて、そんなのひどすぎる。
 鼻がつんとして、こめかみがきりきりと痛み出した。視界がぼやける。喉にかたまりが出来てそれが私の心を押しつぶす。
「俊成君の……」
 油断するとしゃくりあげそうになる喉元を押さえ、何とか声を出した。
「俊成君の、馬鹿っ!」
 涙があふれる前にそう叫ぶと、私はくるりと後ろを振り向いて駆け出した。
「あず!」
 俊成君の声がするけど、止まらない。
 まるで子供のケンカだ。

 ぼろぼろと泣きながら校門を飛び出し、家へ帰った。着替えもせずに制服のまま布団にもぐりこみ、ずっと泣き続ける。
 朝の、告白に対する意気込みがまるで嘘のようだった。告白どころじゃない。自分が信じていた幼馴染としての信頼関係だって、築けていなかったんだ。最低だ。
 惨めな思いを抱えながら泣き続け、それでも俊成君の事を思い続けている自分に気が付いていた。
 俊成君との関係が築けていなかったのが悲しい。俊成君がいなくなってしまうのが寂しい。すべて俊成君を中心に、私の感情がきしんで悲鳴をあげている。
 どうしよう。私、こんなに俊成君のこと好きだったんだ。
 そう思ったら、また泣けてきた。